計略 其の二
その後は計画は慎重且つ着実に進んでいった。
先ず、梁明鈴は朱剴を黄家に密偵として潜入させ、適宜黄家の動向を注視し報告させた。本人は当初嫌がっており、何かしら問題を起こすのではと思っていたが、どうやら上手くやっているらしい。
その一方で彼女は羅秀の情報を元に自身の配下を増やしていた。その中には元々梁家に仕えていたが、引退した老人や破落戸紛いの者もおり、パット見では有象無象の寄せ集めにしか見えなかった。ただ、羅秀に依れば皆、黄家に思うところがあるらしく、明鈴の誘いに思いの外簡単に乗ってきた。
「──なぁ、主殿?」
「何でしょうか?」
「これ、本当に着けないといけないのか?」
「はい」
明鈴が頷けぱ、配下の一人、長身の男が物凄く嫌そうな顔をして訴えかける。その手には気味の悪い仮面が握られていた。
「おや、主殿に意見するのかの?」
好々爺とした男が誂う様な素振りをみせたが、その目は笑っていなかった。言外に逆らうなと圧をかけたのだが、長身の男の方もそれで引き下がる男ではなかった。
「いやいや、別に意見しようってんじゃないんだぜ! ただ俺はこんなもん付けてたら逆に目立つんじゃないのかって言っているんだよ!」
「それで良いのです」
「ええ?!」
明鈴の返答に長身の男は目を白黒させた。
「印象が強ければ強いほど、仮面の下の顔までは想像しづらくなるでしょう? そもそも貴方は有名人なのですからちゃんと付けて下さいね」
気味の悪い仮面をつけた明鈴に念押しされ、男はゔっと言葉を詰まらせた。
彼は此処数年世間を騒がせていた義賊──飛龍の頭領であったのだ。その為、その実力は折り紙付きではあったのだが、彼の顔を知っている者は少なからずおり、何方にせよ彼は最も顔を隠さなけれならない人物であった。
「全く怖い嬢ちゃんだぜ……」
「何か?」
呟きを耳聡く聞きつけた明鈴に対して「なんでもない」と彼はぶんぶんと頭を左右に振った。
彼の様子に先程の老人は呆れたと言わんばかりに肩を竦めていた。
「──しかし、俺等を集めてどうする?」
そう問われ、明鈴は彼等に向き直った。その動作一つでその場に緊張が走る。
「先ずは、私は梁明月として、貴方達はその配下として武功を立てねばなりません。但し、目立ち過ぎず程良く」
「難しい事を言うなぁ」
「ほう、弱気だな若造。出来んのか?」
「出来ないとは言っていない! やってやるよ!」
言い合いを始める二人に対して、彼女はパンパンと手を叩いて止めさせる。
「長期戦になります。じっくりと着実に追い詰めましょう」
彼女の放つ雰囲気、言葉にその場にいたものは息を呑んだ。




