計略 其の一
──その計画は無月の死後に始まった。
彼女達にとって無月の死は予想外のものだったのだ。
「──黄家の奴らが無月を?」
無月の死を知った朱剴は愕然とし、その場に崩れ落ちた。そして激しい怒りを暴言という形で梁明鈴にぶつけた。
当然だ。彼は無月を自身の弟として子供の頃から育ててきたのだ。暴言を吐き続ける彼を明鈴は咎めなかった。
明鈴に対して一頻り暴言を吐いて落ち着いた頃、彼は静かに尋ねた。その瞳にはまだ抑えきれない怒りの炎が宿っていた。
「……黄家の奴等に復讐、してやる!」
「待って!」
飛び出そうとする剴を明鈴は引き留めた。
「俺を止めてくれるな!」
興奮しきっている剴に明鈴は額に手を当てて「はあ」と溜め息を吐いた。剴ほギロリと明鈴を睨みつけるが、逆に睨み返されて剴は息を呑んだ。
自然と彼の背筋を冷や汗が流れた。
今、彼女の目を覆っていた包帯は既に解かれ、僅かに黄金の光を宿した相貌が彼を見ていたのだ。
その瞳に剴は圧倒させられた。その様子に気が付いた彼女が剴から視線を逸らした。
「……報復はさせてあげる」
「だったら!?」
「でも、それは今ではないわ。今、黄家に乗り込んだところで無駄死するだけよ。私は貴方の事を任されているの。だから、むざむざ死地に行かせるような真似は出来ない」
「なら……、なら、俺はどうすれば良い?」
剴は縋るように明鈴を見た。
「先ずは計画を立てましょう。どんなに時間がかかったとしても、必ず成し遂げる。黄家を徹底的に追い詰め、報復するの」
明鈴の瞳がその意志を繁栄するかのように強い光を宿す。薄暗い室内で月が2つ浮かんでいるようだった。
「!」
「先ずは仲間を集めましょう。腕が立ち、簡単に死ななくて、私の部下となれる人物を」
「そ、そんな奴等簡単に集められるのか?」
怪訝そうな顔で明鈴を見ると、彼女は小屋の隅にいる人物に話しかけた。
「どう?」
「──何人か心当たりかあります」
答えたのは明鈴ではなかった。小屋の隅に息を潜めていて、二人をずっと見守っていた少年──羅秀である。
「まぁ、仲間になって下さるかは別ですが」
彼はにこやかに微笑んだ。
──何だよ。何なんだよ、こいつら……?
朱剴は唖然とした。今日、彼の大切な弟が死んだ。目の前にいる少女と少年は確かに彼の弟の友人であった。
だが、今彼には彼の目の前にいる少女と少年も何か得体のしれない酷く恐ろしいものに思えたのだ。




