正体
「──紗華の大禍の正体は……梁明鈴、なのではないですか?」
羅雨がそう言うと、講談師の少女は一瞬だけ顔を顰めたが、直ぐに傲慢そうな笑みを作った。
「何故、そう思う?」
「答え、いいえ、そんなものは最初からありませんでした。簡単なことです。これが何についての話だったのか」
そう言うと「ほう」と注意深く聞いて羅雨の様子を伺っている。
「そもそも貴女がこの話をしたのは私が貴女に紗華の大禍の話を聞きたいと申し入れたからに他なりません。ですから、これは紗華の大禍の話以外にではあり得ないのです」
そこまで言えば少女はふんと鼻を鳴らした。
「確かにお前が聞きたいと言ったからこの話をしたのだ。だが、……そうだな、例えば張皓然がこの話の主人公だとは思わなかったのか?」
「ええ、確か最初は思いましたよ? 彼の話から始まっていますから。けれど、それはそう錯覚させる為でしょう? 書き手が違う話を混ぜて話を分かり難くしているのもそうです」
少女はつまらなそうに掌で扇子をもて遊ぶ。
「これが紗華の大禍の出現した話に繫がっているというのなら、時系列に並べて見ればよいのです。この中で幼少期が語られたのは、梁明鈴のみ。まあ、彼女の周辺人物の幼少期もありますが、最も多く語られているのは彼女だけです。そして、紗華の大禍の出現と共に姿を消した者の中に彼女もいた。話はそこで終わっています」
「つまり?」
少女は羅雨に言葉の続きを促した。
「紗華の大禍が出現によって姿を消した者が紗華の大禍である、という事になります」
羅雨が話を終え、少女の表現を伺った。心底つまらなそうな顔をしている。
「……つまらんな。お前が音を上げて、一つ一つ懇切丁寧に説明してやるというのも一興かと思っていたのだが、ああ、本当につまらん!」
少女は忌々しげに羅雨を見たが、羅雨は答え合わせが出来た事に高揚感が隠せなかった。
神話等、羅雨が生まれる遥か昔の出来事でその真実を知るすべはない。だが、今はどうだろう。目の前には人ならざる者がいて、遥か昔の出来事の真実を語ってくれている。この状況自体が、羅雨の心を浮き立たせるのに事足りていた。
「では、紗華の大禍の真実を語って下さいますか?」
羅雨が期待に満ち満ちた瞳で尋ねると、少女はやや嫌そうな表情をしつつも答えた。
「ああ、良いだろう。語ってやろう」
そして、再び銅鑼の音が室内に響き渡った。
──ドドン!




