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紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第一章 奇々怪々を追う者
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山中にて

「──確かに険しい道だな」


 羅羽は荒れた山道で足を止め、手を膝に当てて荒い息を整える。

 祠の裏手にあった小道から山に入ったのだが、暫くは人一人が通る事のできる道があった。しかし、その道も山奥に行けば行くほど、傾斜もきつく、足元もかなり悪くなってきている。おまけに崖になっている場所もあり、足を踏み外せば下に真っ逆さまだ。羅羽が村に来るまでに通った山道も険しい道であったが、あちらの方がマシな程である。

 羅羽は彼方此方放浪している事もあり、体力面にはそこそこ自信はあったのだが、殆ど人の入らない山道の厳しさを改めて痛感していた。


「これは、妖魔や神獣様に遭わずとも一歩間違えば滑落死するのでは?」


 ──いや、それは困る。せめてひと目見てから……いやいやいや……。


 不穏な考えが頭を過ぎり、羅羽は首を左右に振った。


「一先ず、休もうか」


 羅羽は軽く草を掻き分けて、そこにあった石に腰掛けた。

 顔を上げると、木々の隙間から青い空が覗いていた。しかし、山の中は手入れがなされていない為、鬱蒼としており、薄暗い。普通の人の感覚ならば、気味が悪いと感じるだろうが、幸い羅羽はある意味普通の人では無いので、逆に好奇心を刺激され、わくわくと心踊らせていた。

 薄暗い山奥で、嬉々とした表情を浮かべる羅羽の姿を人が見れば、それこそ妖魔の類と疑うのではないだろうか。


「──ん?」


 ふわりと風が通り過ぎ、芳しい花の香りが羅羽の鼻腔を刺激した。


 ──花の香り? 何処から流れて来ているのだろう?


 周囲には木々はあれど、芳しい香りのする花は咲いていない。不思議に思った羅羽はその香りの元を辿った。


「これは……!」


 香りを辿る内に羅羽は暗い山の中を抜け、気付けば開けた場所に出ていた。

 目の前の光景に羅羽は目を見張った。

 そこには美しい花々が咲き乱れる庭園と小さな屋敷が現れたのだ。


 ──美しい庭園のある屋敷!!


 村の言い伝え通りの屋敷である。あまりの事に羅羽は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「本当に、あった……?」


 羅羽の口から僅かに言葉が漏れた。奇々怪々に出会えた感激と、未だ信じられないという思いに羅羽は胸を熱くした。

 羅羽は高鳴る心臓を沈めながら、きゅっと唇を引き結ぶと、屋敷の方へ向かって意を決して一歩踏み出そうとした。



 





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