考察 其の一
「──如何でしたか?」
声を掛けられ、羅雨ははっとした。長い長い夢の中にいたような不思議な感覚がまだ全身に残っている。
顔を上げれば、あの妙な靄は完全に消え去り、目の前には中性的な少女が羅雨を傲慢そうな顔で見下ろしていた。その少女の背筋がぞわりと寒くなるような雰囲気に圧倒されつつも、羅雨は興奮を隠しきれなかった。
「話はこれで終わりですか?」
「ええ、そうです」
羅雨の問に少女は頷いた。
「嘘ですね」
少女の言葉を羅雨が一蹴すると彼女は一瞬顔を顰める。
「何故、そう思うのですか?」
「大切な部分が色々と抜けていますよね。これでは三文芝居にも劣ります。全く以て期待外れでした」
自分でもひどい言い草だと感じたが、彼は訂正する気など更々無かった。
「ほう?」と少女は凶悪な笑みを作る。怖気が走る笑みで普通であればそこから逃げ出したいとさえ思わせるものであったが、羅雨という男には逆効果であった。彼は彼女を挑発すれば、何か人ならざるものへと変わる姿が見られるのではないかと頭の片隅で期待していたのだ。
彼は更に言い募る。
「そもそも紗華の大禍はどうやって誕生したのです? その描写がありません。私が今まで聞いてきたどの話も内乱の最中としか伝わっていないのです。何故誰も見ていないのですか? 3000人の兵士が全て消えたのですよ? 痕跡は? これが紗華の大禍の誕生秘話だと言うならなんとお粗末な話でしょうか」
怒りを顕にするかと思われたが、「クククッ」と突如として彼女は笑い始めた。
「全く以ての阿呆なのか? 唯の命知らずなのか? いやはや、此処まで来ると流石と言うべきか」
少女の口調が講談師としてものからガラリと変わる。羅雨の瞳が期待に輝いた。
「当然、この話には真実が隠されている。そうだな、簡単に話てしまうのは面白くない。先ずはお前が謎解きをしてみるが良い」
そう言われ、羅雨は物語を一から思い出した。元々記憶力には自信のある彼だが、実体験をしたようなあの感覚のお陰で一つ一つ思い出すの然程苦労しなかった。
「では、謎解きをする前にいくつか質問をしても良いですか?」
羅雨が問うと彼女は「勿論」と頷いた。
「この物語には主人公が複数名存在します。それは別々の書き手の話を繋げているからではありませんか?」
「ああ、そうだ」
少女が鷹揚に頷いた。羅雨はこの話を聞きながら、違和感を覚えていた。最も違和感を感じたが場所はたった一つ。
「梁明月いえ、無月が死んでいるのは確かですか?」
そう問えば彼女の唇は三日月の弧を描いた。




