捜索 其の三
「──全くいきなり人の家にやって来たかと思えば、要らぬ疑いまでかけて……」
八名家の当主陣を連れて屋敷内を案内しながら、黄家当主・黄威龍は文句を垂れる。
「要らぬ疑いと言うならば、文句を言わずにさっさと疑いを晴らせば良いだけだろう」
八名家当主の中で最年長の唐当主にそう促され、黄当主は閉口する。此処で中立的な立場を保つ唐家の反感を買いたくはないのだろう。そもそも、彼は「証拠を捏造されてはかなわない」などと宣った黄当主の為に梁家・張家・郭家を覗いた他四家の当主陣がついて来たのだ。
「唐当主にお手間をかけてもう少し訳ありません」
「本当だ!」
郭清孝が謝辞を述べると唐当主はふんと鼻を鳴らす。他家の争い事に無関心な唐家の彼はさっさと終わらせたいのだろう。黄当主が文句を垂れる度に諌めていた。
「──そう言えば、梁当主にお伺いしたいのだが、従姉妹殿は母方の血筋かね?」
ふと思い出した様に唐当主が篤実に尋ねる。その時、一瞬黄当主の表情が変わったのを皓然は見逃さなかった。
──何だ?
「いいえ、父方の血筋ですが何か?」
「そうか、であれば気の所為か」
きょとんとした顔で答えた篤実に対して唐当主は僅かに訝しむ素振りを見せたものの直ぐに元の表情に戻った。
しかし、黄当主と唐当主の反応の違和感に清孝も気が付いたのだろう。皓然と清孝は視線を僅かに交わして首を捻っていた。
「もうこれくらいで良いでしょう。他の皆様も待たせていますし、気が済んだのではありませんか?」
一通り屋敷内を巡ると限界だとばかりに黄当主が言った。
「確かに一通り巡って何も無かったのだ」
実際怪しい場所は無く、あとは禁書等が納められている場所くらいしかない。
──他家の禁書庫なんて証拠もなければ探る事も出来ないしな。
皓然達が諦めて戻ろうとした時、バン!と音がして目の前の禁書庫の扉が開いた。
そこから出て来た人物に八名家の当主陣は目を丸くした。
皓然も突然の出来事にかなり驚いていたが、禁書庫の主である黄当主は更に驚いただろう。
何せ禁書庫の扉を開いて現れたのは、梁家で皓然を案内した異国の血が混じったあの誘拐された筈の少女であったからだ。
「──さて、黄当主。これは一体どういう事なのか説明していただけますかな?」
唐当主が無慈悲な質問を黄当主に投げかけた。




