作戦会議
「──申し訳ありません、皓然様」
「気にするな」
「…………」
向かいあって座った皓然と明鈴は同じやり取りを何度か繰り返し、気不味さで黙り込んでしまった。
「ま、まあまあ、ほとぼりが冷めたら破談にしてくれれば良いんだし!」
「お前はもう少し気にしろ!?」
それもこれもすべて当主として頼りない篤実のせいである。
「で、これからどうする?」
白楽が集まった面々を見渡した。
「ふん。もう少し動揺するかと思っていたが、黄当主はしらを切るつもりだぞ」
「長年黄家の当主に収まっている方です、一筋縄ではいかないでしょう」
「そうだな、黄家の中については俺等が探りを入れるよ」
白楽の言葉に郭清海が頷いた。会議に出なければならない当主陣を覗けば彼等が適任だろう。
「皓然と郭当主は黄当主に探りを入れてくれ。それと明鈴嬢は黄当主に目を付けられているだろうから気を配ってほしい」
「ああ、分かった」
「で、私は何をすれば?」
話が纏まると、黙っていた篤実が探るように白楽に尋ねた。
「お前は……くれぐれも大人しくしててくれ」
「不容易な発言は控えてくれると助かる」
白楽だけでなく彼が頼りにしている清孝の良いように彼はがっくりと項垂れた。仕方ないだろう。
「清海兄様、白楽様。拐われた者の中には私の従僕の娘もいます。その子は異国の血が混ざっていますから、見れば直ぐに分かるでしょう。どうかよろしくお願いします」
明鈴が小さく頭を下げると、白楽は安心させる様に「ああ、わかった」と言った。
✧✧✧
「──明鈴嬢を連れてきたのは正解だったな」
「だが、まさかあの場で梁当主が明鈴嬢と張当主が婚約していると言い出すとは予想外だった」
満足そうな白楽に対し、清海は僅かに眉間に皺を寄せた。
正直に言えば、白楽にとって明鈴嬢が黄当主に目をつけられるのは想定内であった。というよりも、黄当主に目を付けて貰う為に明鈴を会議の場に連れてきたのだ。
黄当主が明鈴嬢に目をつければ、婚約を持ち出すだろうと予想し、その場合、白楽達の計画では婚約者役は郭当主であった。
黄家当主であっても同じ八名家の当主の婚約者には簡単に手が出せないと踏んでのことだった。これは明鈴嬢も郭清孝も了承の上での事だった。
しかしながら、あの場で篤実が張皓然の名を出してしまったので、この計画について何も知らない皓然が相手役に変わってしまったのだ。
皓然は当然ながら困惑しただろうが、白楽たちも動揺した。
──あの場で皓然が否と言わなくて良かったよ。
否と言える状況にはなかったとはいえ、流石にハラハラした。
──とはいえ、相手が変わっただけで計画は大筋通りだ。早く証拠を見つけ出して皓然を解放してやらないとな。
白楽は気を取り直して、黄家内に探る事に集中する事にした。