八名家招集 其の三
「──ふははははっ!」
突然、黄当主は大きな笑い声を上げた。皓然達を含めた八名家の当主達は黄当主の反応に驚きが隠せない。
「何か可笑しい事がありますか?」
郭清孝が眉間に皺を寄せた。
「成る程、慈悲深く賢明な郭当主は被害妄想の激しい梁当主の言をそのまま信じたらしい! まさか、張当主まで巻き込むとは」
「何ですって?」
「いやいや、若い当主陣が友情に厚いのは良い事だ」
顔を顰める皓然と清孝に対して黄当主は面白くて堪らないとばかりに嘲笑う。そして、如何にも自身が寛容な人物であるかのように振る舞っている。
「だが、黄当主よ。妖魔の出現報告に関しても、梁家の人攫いの件に関しても説明は必要だ」
今まで黙っていた唐家が口を開いた。それに他三家──曹家、許家、鄭家──の当主達も同意する。
「梁当主の言う人攫い云々の話は兎も角、妖魔の件は我々にも影響する。隠し立てはしてくれるな」
名家同士の揉め事には基本傍観している唐家から釘を刺され、黄当主は面白くなさそうに顔を歪めた。しかし、彼は直ぐに親しみやすい表情を浮かべると、篤実の方を見た。
皓然は酷く嫌な予感がした。
「ふむ。我が黄家は早急に梁家との仲を改善するべきであろうな。して、梁当主貴殿が付き添いとして連れてきた従姉妹殿は未婚だそうだな」
「え? ええ」
冷や汗をかきながら、篤実は頷いた。
「私の嫡男と婚姻を結ばせてはどうだろうか?」
再び周囲がざわめいた。自然と篤実の隣控えていた明鈴に視線が集まる。明鈴は俯いており表情は見えなかった。
「だっ、駄目です!!」
慌てて篤実が、首を左右に振った。黄当主の口角が僅かに上がった。
「何故?」
「か、彼女は身体が弱く……」
「その様な事は我々の関係改善を考えれば些末な事でしょう?」
「そ、それに……」
「それに、何です?」
篤獲物を狙う猛獣の如く黄当主は篤実を追い込もうとしていた。この篤実と黄当主のやり取り皓然は見ていられなくなって来ており、何とか助け舟を出そうとする郭当主と視線を密かに交わしていた。
「私の従姉妹は既に張当主と婚約を結んでいるのです!!」
──彼奴、婚約だって?!
篤実の爆弾発言に皓然は唖然とし、周囲は再びどよめいた。彼らの視線は今度は皓然に集まった。
「張当主、梁当主の言うことは本当なのか?」
曹当主が尋ねるが、この状況で否と言えるわけもない。否と言えば、明鈴は間違い無く黄家に嫁ぐ事になってしまうだろう。
「ああ、本当だ」
だから、皓然は梁明鈴との婚約を認めるしかなかった。