人攫い 其の三
「──して、何か良い策はあるのか?」
皓然は前を歩く明月に尋ねた。向かう先は梁家の本邸だ。
「まず、当主に八名家の招集をかけてもらい、八名家会議を開きます」
八名家当主ならば、他の八名家を招集する権限を持っている。ただ、あの篤実が直ぐに了承するとも思えなかったが。
「その場で黄家を糾弾するのか」
「ええ、できるならば」
やや歯切れの悪い明月に皓然は顔を顰めた。
「何かあるのか?」
「皓然様にもご助力願いたいのです」
「私に? 何をだ?」
皓然は片眉を上げた。
「人攫いがあった時に張当主が居合わせたと。巻き込む事になりますが」
「今更だろう」
明月の言に皓然はふんと鼻を鳴らす。言われなくてもそうしていた。大体、既に片足を突っ込んでいる。それに実際に黄家は梁家の者を攫っているなら、拐われたの者たちを探し出し、証拠さえが見つければ糾弾自体は上手くいくだろう。
その後は分からないが。
「──分かった。直ぐに八名家を招集するよ」
明月から報告を受けた篤実はあっさりと八名家を招集する事に同意した。その姿に皓然は少し驚いた。
「てっきり泣き喚くかと思っていたが、随分とあっさりしているな」
皓然が本音を漏らすと篤実は眉尻を下げ、口を窄める。
「私だって梁家の当主なんだよ! それくらい当然さ! それにこの件に関しては以前から梁家内でそうすると決めていたのだよ」
「何だそういうことか」
言葉尻が小さくなった篤実に皓然の感心はあっという間に呆れに変わってしまった。
最初から決まっていた事なら別に凄くはない。
「ところで明月殿は何処に?」
篤実に報告するや否やさっさと何処かに行ってしまった明月の姿を探す。
「ああ、別の仕事があるのさ」
「忙しそうだな」
言外に“お前と違って“という言葉を含ませたのが伝わったのだろう。篤実は酷く不満そうな色を滲ませた。
「じゃあ、俺は戻って八名家の会議場に向かう」
「ああ、違うよ!」
「違う?」
皓然は何を言っているのだとばかりに篤実を見た。八名家が集まる場所といえば、あの八角の机のある会議場しかない。
「──招集場所は黄家。黄家に行くんですよ」
そう言って現れた人物に皓然は目を瞠った。
そこにいたのは梁明鈴と彼もよく知る李白楽の二人だったからだ。