表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紗華国妖魔奇譚  作者: 空色
第五章 紗華の大禍の誕生・後編
127/175

人攫い 其の一

「──大変です、明月(ミンユエ)様!!」


 皓然(ハオラン)が言葉を失っていると廊下をどたばたと走る足音が聞こえ、彼を案内していたあの少年が部屋に飛び込んで来た。


孫易峰(ソン・イーファン)、今は来客中だ! 礼儀を弁えなさい!」

「明月様、申し訳ありません! でも、本当に、本当に大変なのです! 姉が、姉が攫われたかも知れません!!」


 叱責する明月に対して、取り乱した少年は彼に縋り付く勢いで詰め寄った。


「易峰、落ち着きなさい」

「何があった?」


 堪らず皓然も口を挟む。


(チャン)当主。私の姉が拐われたのです! 先程の無礼は俺が謝ります。どうかお助け下さい!」

「それは、確かなのですか?」 


 少年の切羽詰まった様子に明月の声も固くなる。


「先程、その、張当主に啖呵を切った後、姉は一人になりたいと。何時もなら直ぐに戻ってくるのです。ですが今日は何時まで経っても戻って来ないので呼びに行ったら、これが」


 そう言って彼は握っていた髪紐を見せた。


「それが何の証拠になる」

「これは姉が明鈴(メイリン)様に頂いたもの。とても大事にしたおり、常に身につけているのです! それを落とすなんて有り得ません!!」


 力説する少年の背を明月は擦って落ち着かせようとする。


「直ぐに周辺を探させます。貴方はそれが落ちていた場所案内しなさい」


 立ち上がった明月は皓然に視線を向けた。彼は少し躊躇う様子を見せたが、皓然を真っ直ぐに見た。


「皓然、今ならまだ聞かなかった事に出来ます」

「何?」


 皓然怪訝そうな顔をした。


「色々と内輪の話をしたのは私ですし、この様な事を言うと怪訝に思われるでしょう。張家の助力が得られるのは此方としても望むところです」


「ですが」と明月は続ける。


「今はまだ梁家の総意ではありません。私は張家を道連れにしたい訳ではないのです」

「共倒れになると? それほど今の張家に力がないと思っているのか?」


 明月が張家を軽んじていると思った皓然は鼻を鳴らし、沸々と湧き上がる怒りを燃やした。しかし、その怒りは明月が続けた言葉で直ぐに消え去った。


「いいえ、力がないのは梁家の方です。場合によっては張家の足を引っ張るでしょう」


 淡々と告げる彼の表情は分からないが、妙に頼りなく感じた。


「今この件に関わればきっと後戻りは出来ない。それでも梁家に味方して下さいますか?」


 その問の答えに皓然は不思議なほど迷わなかった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ