偵察 其の五
「この件については当家で箝口令が敷かれています。ですので、他言無用願います」
「ああ、分かった」
こ皓然はごくりと息を呑んだ。その場に緊張が走る。
「実は梁家の者が攫われている事件が起きているのです」
「なっ! 何故そんな事を……!?」
寝耳に水であった皓然は愕然とした。
今は廃れているとはいえ梁家は八名家の中でも有力な家であった。また、家風も公正で他者に恨みを買うような家柄ではなかったのだ。
「犯人は十中八九は黄家でしょう」
「黄家が何故?」
そう問いつつも理由は何となく察せられた。だが、黄家にも体裁がある。そんな赤羅様な事をするとは思えなかった。
「これは先々代当主の時代に遡るのですが、張当主は先見の巫女の一族の事件を御存知ですか?」
先見の巫女の一族とは占術の家系であり、先の世を見通す力を持つ女系一族である。その力は特殊で女人にしか継承されない。
しかし、その一族は既に滅んでいる。
「確か黄家を陥れようとした罪で一族郎党斬首刑になったのだったな? それが今回の件と何の関係があるのだ?」
この件について皓然は詳しい内容は知らない。皆口を閉ざすのだ。
「あれは濡れ衣を着せられたのです」
「なぜそう言い切れる?」
皓然は顔を顰めた。あり得ない事ではないが、そう言い切るには情報が足りなかった。
「実は斬首刑に処される少し前、一族で最も強い力を持つ巫女が妖魔孔にも関係のある予言をしたのです」
「どんな予言だ」
明月は声を潜めて言った。
「梁家の血筋に妖魔孔に封ずる力を持つものが誕生する、と」
皓然は耳を疑った。初耳である。
「その予言を知っているのは?」
「先見の巫女の一族、梁家、黄家の一部、賀州の大僧正様です」
──これは拙い……。拙すぎる。
皓然の顔色がみるみる悪くなった。内心ではもう明月の話を聞きたくはないし、聞かなった事にしてしまいたかった。
「張当主はこの意味がお分かりの様ですね」
そう言った明月の声に同情が籠もっている様に感じるのは気の所為ではないだろう。
恐らく皓然この件を知らないのは彼が若い当主だらけというだけではなく、黄家や梁家が他家に知られないようひた隠しにしていたからだ。
「この件が露見すれば、八名家の、いえ、梁家と黄家の力関係が崩れます」
──内乱が起きる。
皓然は頭が痛くなった。
今まで梁家と黄家が均衡を保っていたのは、それぞれ妖峰山から最も危険な地を守るという責務を担っていたからだ。
黄家は梁家の台頭を望まない。しかし、だからといって梁家の貧しい領地まで背負う気はない。
──それが今になって何故梁家の者を攫う?
そう思い、頭にある考えが過った。
「予言が指し示した者を探しているのか?」
「はい。恐らくは」
明月は頷いた。その仮面に隠された顔を見つつ言った。
「なら、真っ先にお前が狙われるのではないか?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「梁篤実の父や兄がいない今、梁家の血筋で最も妖魔孔を封じる力があると考えられるのは貴殿だからだ」
その答えに明月はふっと嘲笑った。その様子に皓然は顔を顰めた。
「ええ、確かに一度殺されかけました」
皓然は絶句した。




