偵察 其の四
「どういう意味だ?」
背筋に冷や汗をかきながら、皓然は聞き返した。
「張当主らしくないと思いまして。恐れながら、李白楽様の入知恵ですか?」
──思いっきりバレてるじゃないか!!
皓然は内心で白楽に抗議した。
「何故そう思う?」
体裁を保ちながらどうにか問い返す。
「張当主が梁家領のことで疑問に思われたなら、真っ先に当主である梁篤実様に尋ねたのではないですか? それをせずに明鈴嬢や私に尋ねるのは不自然です。それに……」
「それに?」
急に歯切れ悪くなった明月に続きを促した。彼は先程手渡した手土産の方を見てから口を開いた。
「女性の好む手土産を張当主は存じ上げないかと」
「…………」
何故か酷く申し訳無さそうに告げられ、皓然は何とも言えない気持ちになった。事実、この手土産も白楽に指定されたものだった。
「ですが、張当主の言い分も理解出来ます。なので、話せる範囲であればお話しましょう」
「そうか。それは助かる」
皓然は安堵した。此処で断られたらただ恥をかいただけである。
「しかし白楽様も張家を破門になったとはいえ、張当主を気にかけていらっしゃるのですね」
「あーいや、これは郭当主に頼まれたらしい」
正確には郭清孝が郭清海に頼んだことである。
「郭当主が?」
明月がピタリと動きを止めた。その反応に皓然は首を傾げた。
梁家と郭家との関係は元々良好で彼の人柄の良さも有名だ。寧ろ安堵するという反応の方が自然だったからだ。
「どうかしたか?」
「いえ、郭当主は噂に違わぬ傑物だと思いまして。……話を戻しましょう。我が領内で妖魔の被害が少ない理由をお話します」
皓然は息を呑んだ。
「確かに他領に比べて妖魔の被害が少なく見えるのは単純に土地柄や地形の問題です」
皓然は梁家領の地形を思い返した。
「梁家の土地は元々恵まれた土地ではありません。今潤っている様に見えるのは妖峰山に面しているからです。それは張当主も理解されていることでしょう?」
「ああ、梁家と黄家が八名家の中でも優位な立場についているのは妖峰山に近く最も被害を被るからだ。だからこそ、今の状況はおかしい」
明月は頷いた。
「実は近年梁家領で崖崩れなど自然災害が頻発しているのは御存知ですか?」
「数年前に大規模な崖崩れがあったのは記憶しているが、最近も起きていたのか?」
その崖崩れは張家の領地にも近かった為、皓然の記憶にも残っていた。
「はい。山の奥地や人気の無い場所でも小規模なものが多く発生しています。恐らく今後も発生するでしょう」
「それは妖魔孔の動きと関係しているのか?」
「分かりません」と明月は首を左右に振る。
「ただ、妖魔も生き物です。災害の気配を察して梁家領を避けている、という可能性は高いでしょう」
「それは梁家にとって、良いのか悪いのか難しい問題だな」
妖魔の被害が減る事自体は良い事でも、その裏で自然災害に脅かされていたのでは気が休まらないだろう。
「ええ、何処で発生するか分からない自然現象の為に人員を割き続けることは出来ませんし、一度被害が出れば復興までに時間がかかります」
「もしや、黄家も同じ状況か?」
ならば、妖魔が山を下りている原因にも納得がいく。
「黄家は梁家と比べて潤沢な土地柄です。崖崩れなどの災害は起きにくい。梁家の妖魔が移動するなら黄家梁に真っ先に向かでしょう」
──矢張り、黄家は隠し事をしている?
「梁家は黄家の動向は把握してないのか?」
「黄家周辺に人を送って調べさせています」
「それで、どうだった?」
皓然が尋ねると明月は問いには答えず背筋を伸ばしてまっすぐに彼を見た。
「張当主、貴方は本当に梁家に協力して下さいますか?」
ドキリとした。
先程は明月を信用させる為に言ったに過ぎなかったが、此処で否と答える理由にはいかなかった。
「勿論」
皓然がそう答えると明月は声を抑えて言った。
「なら一つ、重要な話をお伝えします」




