偵察 其の二
──間者の真似事など俺には向いていない!
そもそも張皓然の八名家の当主という立場なら人に命じてやらせれば良いことで、態々本人が率先してすることではないのだ。
──また、白楽に唆された!
それは彼が何時になく真面目な顔で言ったからだ。ヘラヘラした顔で言われていたならば、決して彼に唆される事は無かったろう。
そんな事を考えながら、案内役の娘と少年──梁明鈴の下へ案内した異国混じりの娘と彼女に似た少年──の後をついて歩いているうちに奇妙な事に気が付いた。
明鈴宅が本家から離れた場所にあるが、本家から遠ざかっているように感じのだ。
「──おい、お前達。道は合っているのか?」
皓然が声を掛けると娘はぴたりと足を止め、彼を睨み付けた。少年の方はそんな彼女と皓然をはらはらと見守っている。
「何様なの?」
「何だと?」
使用人にそんな口を利かれた事のない皓然は唖然とした。
「名家の当主なら無作法でも許されるの?」
「何を言っている?」
「明鈴様は言わないから私が代わりに言っているのよ。張当主、先触れも出さずに何度も明鈴様の元を訪れているでしょう?」
「それがお前に関係あるのか?」
「あるわ! 主を見下されて黙っていられると思うわけ!?」
「俺がいつ明鈴嬢を見下した!」
心外だとばかりに皓然は声を荒げたが、娘の方もその明るい色の瞳に怒りの炎をメラメラと燃やしている。
「見下してるじゃない! 先触れも出さずふらりと現れたて相手をさせたり、くっだらない頼み事をしたり! 相手が梁明月様だったからまだ良かったものの、使用人に明鈴様の事も聞き回ったそうじゃない! それが見下してないとどうして言えるの!?」
皓然は絶句した。
彼女に言われた事は殆ど事実で彼自身が明鈴を見下したつもりは無くとも、彼女に対して失礼で他者から見れば、彼女を軽んじていると取れる行動を自身が取っていた事に漸く気が付かされたのだ。
「姉さん落ち着いて!」
「アンタは黙ってなさい!!」
少年が弱々しい声で娘を窘める。
娘は言いたい事を言っても怒りが収まらないのか、苛々とした様子で茂みの方へと行ってしまった。
少年は皓然に深々と頭を下げると明月の家の方向──今まで歩いて来た道と反対方向──を示すと彼女の追って茂みへと入って行っていしまった。
その場に残された皓然はただ呆然として暫くその場に立ち尽くしていた。




