妖魔討伐戦 其の四
「──ご不満もあるでしょうが、張当主に利も有ります。どうかご辛抱を」
「はっ、貴様俺に恩を売ったつもりか? 何も無ければ唯の無駄骨だぞ?」
唐突に明月が口を開いた明月に対して皓然は皮肉った。
明月が言うようにこれだけ各地で妖魔が大量発生している今の原因を解明できれば、大きな功績となるだろう。だが、これは妖魔の大量発生した原因を見つけられた場合の話だ。何も無ければ、唯の無駄骨なのである。
「無駄骨の方が良いことも有ります、ですが、必ず何かあります」
明月は冷静に返した。それが余計皓然の気に触る。
「ふん、貴様根拠はないと言っていなかったか?」
「ありません。ですが、これだけ妖魔が各地で出没しているのです。何もないはずないでしょう?」
当然の様に言う明月に皓然は唖然とした。
「それに張当主に恩を売るためにこんな事をしているのではありません。これは妖魔の被害を減らす為。ですが、私は一将軍に過ぎません。それを不快に思う方もいらっしゃるでしょう」
「それは俺の事か?」
皓然が鼻を鳴らすと、明月は一瞥したが肯定も否定もせず続けた。
「張当主には私の風避けになって頂きたいのです。恩を売るのはそのついでです」
「ついで」
──こいつ今俺を風避けにしようとしたと言ったのか!? 俺に阿る為に恩を売る無く!!?
皓然は唖然とし、言葉を失った。暫くの間固まっていたが、ふとある事が思い至った。
「俺が貴様の事を探った事を根に持っているのではないか?」
「……いいえ、探られて困る事など何一つありませんから」
皓然は今度こそどうだと胸を張ったが、それも明月に見事に肩透かしを食らった。
直ぐに自身の思い上がった言動に羞恥を覚え、その場で地団駄を踏みたくなった。幸い今この場にいるのは皓然と明月だけなので、何とか彼の矜持は保たれるだろう。
しかし、それはそれでは余りにもみっともなくどうにか最後の矜持でなんとか踏みとどまっていた。
そんな彼の内心を知ってか知らずか、明月は紙にさらさらと大まかな地図を描くとそれを皓然の目の前にずいっと差し出して言った。
「さあ、此方が私の調査した結果です。どうかご指示を」
明月自身でも簡単に出来るであろう判断を下す為に皓然は渋々とその報告書を受け取るしかなかった。




