妖魔討伐戦 其の三
「──ですので、討伐を行うと共に早急に原因を究明も必要だと郭当主と張当主に進言致します」
梁明月は礼を取り厳かに言った。その表情は不気味な面に隠され伺い知ることは出来なかった。
「何を根拠に言っている!」
堪らず張皓然は声を上げた。妖魔が複数体出現している以上、その他の事に戦力を削ぐ事は出来ないと考えたからだ。
「根拠は御座いません。あくまで推測ですが、新たな災いを防ぐためにもどうか」
彼は頭を下げたままの体勢で続ける。逡巡した末、郭清孝は口を開いた。
「……期限を2日設けよう。妖魔の異常発生している今その討伐に係る人員を必要以上に割くことはできない。狂化した妖魔が現れれば尚更だ。期限内に見つけられなければ一旦、討伐と合流して討伐に専念する。それで良いか?」
そう尋ねられ明月は「ありがとうございます」と礼を言った。そして、彼はそのまま意外な事を言い放った。
「それで一つお願いがございます。是非張当主も同行して頂きたいのですが」
「何故、私が?」
これには皓然は目を瞠り、清孝は渋い顔をした。
「私は一将軍に過ぎません。有事の際、張当主の指示を仰ぎたいのです。郭当主は討伐の総指揮を取られるでしょう。ならば張当主にご同行していただくのが妥当かと」
「君は先遣隊としての経験は豊富だと聞く。人手が割けない今君の判断でも構わないが……」
「いえ、だからこそです。張当主の指示を仰ぎより正確な判断を下したいのです」
『お願い』と言いつつも一歩も引かない様子の明月に郭清孝は眉間を軽く揉むと、渋い顔をしながらも「分かった」と答えた。
「有り難う御座います」
「郭当主!」
皓然が抗議の声をあげるも虚しく明月との同行は決まってしまった。
「私達は先ず狒々の討伐の作戦を練ろう。その間に妖魔の動向と異変の調査を頼む。君たちの戻りが遅ければ、討伐作戦を開始する」
「出来るだけ早く戻ります」
そう伝える明月の仮面に隠れた横顔を見ながら、皓然は拳を握り締めた。
──全く何を考えているんだ!
皓然は内心で憤懣を抱えながらも、明月と調査範囲を確認する為場所を移動した。




