妖魔討伐戦 其の二
明月の部隊は半時辰も経たない内に戻ってきた。
「──どうでしたか?」
「実は……」
その様子は全くもって良いものでは無かった。
明月の報告によれば、山の浅い場所に複数の妖魔の姿を確認したとの事だ。
顒──梟の姿をしており、四つ目に耳のある人間の顔を持つ人面鳥──や巴蛇──大蛇の妖魔──、狒々──大型の猿の妖魔──の群れも目撃したらしい。
これには皆一様に驚きを隠せなかった。
本来これらの妖魔は妖峰山や先日鼬の妖魔が現れた千頂山の山奥で出没する。こんな人里近い場所で出現は異常事態であったからだ。
「初期の報告以上ですね」
郭清孝の眉間の皺が深くなる。
「今回の妖魔討伐、難航するかもしれません」
巴蛇や狒々は人里近くでも見られる事がままあるが、それは群れから外れたものや餌をおって出てきてしまったものが殆どである。その為、通常ならば複数人で囲い込み討伐するという方法を取っていた。しかし、今回の様に数が多ければその方法も取りづらいだろう。
特に狒々の群れは厄介で、狒々は大型ではあるが俊敏で獰猛だ。もし打ち漏らして人里に降りれば多大な被害を被る事になるだろう。
「慎重且つ素早く対処せねばなりませんね」
清孝の視線がふと明月に向かった。彼は地図書き込んでいたが、その手が止まっている。
「気になる事が?」
清孝が尋ねると周囲を気にしつつも明月が口を開いた。
「何故顒は出てきたのでしょうか?」
「何を言っている? 顒は大人しく人を襲わん。今対処を話し合っているのは巴蛇と狒々の群れだ」
皓然は眉を潜めた言い放った。
「その通りです。顒は大人しく山奥で暮らしており、滅多に人里には降りて来ません。一方で、忌み嫌われるのは顒が現れると旱魃起こると言われているからです。何故現れたのでしょうか?」
皓然や他の者達は明月の問いに訝しんだが、清孝は更に尋ねた。
「それは討伐に関わることか?」
「もし、原因と結果が逆であれば関わるかと」
「原因と結果が逆……?」
清孝は暫く同じ言葉を反芻していたが、はっとして明月を見た。
「顒が現れるから旱魃が起こるのではなく、旱魃が起こるから顒が現れる? ならば、山の奥でその前兆となる何かが起こっている可能性があり、それが原因で巴蛇や狒々が群れで現れたと! 今後も被害が出る可能性があるという事か!!」
清孝がやや興奮気味に言い切るとその場は騒然とした。




