付喪神 其の二
「分かっていたならどうして仰言らなかったんですか!?」
弟子の一人が我慢できずに声を荒げた。それを清海は視線で制し、静かになったところで陳梓晴は口を開いた。
「大事にしたくなかったんです。一歩間違えれば、私も彼女の様になっていたでしょうから」
そして彼女はぽつりぽつりと話始めた。
彼女が悪夢を見始めたのは、羅秀との婚約が決まった頃からだった。
羅氏は数年前から少しずつ大きくなった商家で、その商売は手堅さ堅実さから多くの大店が一目置いていた。当然その跡取り息子にも注目されていた。その意向を受けた娘達も彼の人柄と相まって色めき立っていたらしい。彼女もその一人だった。
「ですが、彼には幼少時から懇意にしているご令嬢がいらっしゃって、誰も彼との婚約には漕ぎ着けないだろうと言われていたのです」
それがどういう訳か突然羅秀との縁談話が陳梓晴の元に転がり込んできた。他にも良い家柄の娘がいるというのにだ。
「私、嬉しくて。でも、その分他の令嬢からの嫌がらせもありました。大抵のものは大した事もなく、放って置いたら嫌がらせは直ぐに無くなりました。ですが……」
「悪夢を見るようになった、という訳ですね?」
「はい」と梓晴は頷いた。
「婚約に嫉妬した他家の令嬢が梓晴嬢に対して呪術を行ったというのが今回の原因ですか……。なら、元々羅秀さんと懇意にしていた令嬢が怪しいのではないですか?」
「私もそれは少し疑いましたが、それは有り得ないと思います」
「何故そう言い切れるのですか?」
不思議そうに尋ねる凌に話の流れから理解した清海が代わりに答えた。
「他の家の者が口出し出来ない家柄の娘なら、貴女と婚約者殿の縁談を簡単に妨害出来るし、そもそも羅さんととっくに婚礼を上げていてもおかしくないからですよね」
梓晴は静かに首肯した。
「では、梓晴嬢は自分に呪をかけた人物に心当たりはありますか?」
「思い当たる方はいます。誰かまでは定かではありませんが」
そう言って、彼女数人の名前を紙に書いた。どれも陳家と同じくらいの家柄、同年代の娘らしい。
「諦めて下さりさえすれば、と口を噤んだのが良くなかったのでしょうね。結局大事になってしまいましたから」
彼女は自嘲していた。




