真夜中の足音 其の三
「──怪異とお嬢様の件は無関係ということでしょうか?」
「けれど、怪異が起きて症状が和らぐというのは何故なのでしょう?」
一通り話を聞き終わった郭清海と弟子達は再び話し合いを始めた。
「先祖の霊が警告の為に怪異を起こしているというのは考えられる」
「では、怪異は悪いものではないということでしょうか?」
「警告したいなら、枕元にも立ってくれれば良いのに」
清海の答えに対して郭凌が尋ねると別の弟子がそんな言葉を呟いた。確かに彼の言うことにも一理あり、凌も思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「まだ、怪異そのものの関係の有無を決めるのは早いだろう。あらゆる可能性を考えるべきだろう」
師匠である清海にそう諭されて、凌を始めとした弟子達は表情を引き締めた。
その時である。
──タタタッ
廊下を走り抜ける軽い足音がした。
清海と弟子達は顔を見合わせると、部屋から出てその足音を追った。
足音の主は予想以上に素早く縦横無尽に屋敷内を走り回る。屋敷内なので、弟子達も思うように行かず、中々足音の主へとは辿り着けない。
弟子達は挟み撃ちをしようと二手に分かれるも、相手は屋敷内を熟知しているのか、追いかける弟子同士でぶつかりかけたりと散々な有り様だ。
「くそっ! 何処行った!」
「全然、追いつけない!」
数時間追いかけっこをし続けた結果、弟子達は皆ふらふらでとうに限界を迎えていた。それでも、ゼーハーと肩で息をしながら足音の主を追いかける。
──ガササッ
草を掻き分けるような音がして誰かが叫ぶ。
「中庭だ!」
弟子達は皆一斉に中庭に向った。月明かりに照らされて、足音の主の姿が露わになった。だが、それは一瞬の出来事で直ぐに見えなくなった。何故なら足音の主は軒下へと潜り込んでしまったからだ。
弟子の一人が足音の主を追い掛けようと軒下へと潜り込む。しかし、軒下は狭く四つん這いで進んでいかなければならず思う様に進めない。
更に、足音は徐々に小さくなり、足音はしなくなっていた。
気が付けば空は白んでいた。
全身ぼろぼろの状態の弟子達であったものの、収穫があったのでその表情はすっきりとしている。
郭凌は弟子達を代表として自分達の姿に唖然とする陳氏の前に出てこう伝えた。
「──怪異の正体がわかりました」