真夜中の足音 其の二
「──お前達はどう思う?」
客間に案内され使用人達が席を外すと郭清海は弟子達に尋ねた。
「確かに不吉な気配はしますが、そこまで悪いものとは思えません」
「影響を受けているのが陳氏のお嬢さん一人なのも気になります」
「陳氏のお嬢様が狙いなのかもしれません」
「お嬢様に会ってみませんと」
弟子達は一人ずつ意見を言っていく。清海は彼等の言葉に耳を傾けながら頷いた。
今日陳花楼に到着してから、陳氏の娘・陳梓晴にはまだ会っていないが、直ぐに会えるだろう。
「今夜ですね」
郭凌が言った。今夜、再び怪異が現れればその正体も分かるだろう。
「そうだな」
清海も頷いた。
──その夜
郭清海達以外にもう一人、陳氏宅を訪れた者がいた。陳氏の娘の婚約者だ。
「青州の羅秀と申します。何の役にも立ちませんが、居ても立っても居られず来てしまいました。どうか私の婚約者をよろしくお願いします」
そう言って彼は恭しく頭を下げた彼は婚約者を思う好青年である。陳氏の娘は青白い頬を紅く染め、弟子達は感銘を受けている様であった。
しかし、郭清海はその姿に妙な既視感があり、一人首を捻る。
「師匠、あの者が何か?」
清海の様子に目敏く気付いた郭凌が声をかけたが、清海ははっきりと思い出せず「何でもない」と首を左右にする事しか出来なかった。
「御父君にも伺ったが、怪奇現象が起き始めた頃から貴女の体調が良くないそうですね? 何かお心当たりはありませんか?」
「実は……それ以前から悪夢を見ることが多くなりました。外出先で事故に遭うこともあったり。勿論、最初は気の所為だと、気に留めていませんでした」
「悪夢に、事故?」
陳氏からその様な話は聞いておらず、清海と弟子達は顔を見合わせた。
「何だって!? 何故、私に言わなかった!!」
陳氏は愕然とし声を張り上げた。本当に知らなかったらしく、顔が真っ青だ。
「だって、お父様心配して大騒ぎするじゃない。それに事故といっても、危うく馬車にぶつかりかけたり、橋から落ちかけたりしたくらいで私怪我一つしてません。だから、ちょっと寝不足で注意散漫になっているせいだろうと」
娘は些末な事のように言うが、馬車にぶつっても橋から落ちても一大事になっていただろう。弟子達も青褪めているが、陳氏はもっと酷く血の気が引いて白くなっていた。
「足音が聞こえる様になってからはどうですか?」
凌が気を取り直して梓晴に尋ねた。
「あの足音が聞こえる様になってからむしろ解消されていたのです。ですが、最近また悪夢を見始めて……」
彼女は顔を俯かせたり。その顔色は悪い。
「それはどんな悪夢ですか?」
「それがあまり覚えていないのです」
娘は申し訳無さそうに話たが、清海は眉間に皺を寄せた。