八名家の七不思議 其の五
「──明鈴様と言えば分家の腰巾着の主ではありませんか?」
初老の使用人が言った。門下生が駄目ならと声をかけて回って漸く知っている者に出会ったのだ。
「分家の腰巾着?」
白楽が尋ねると使用人頷いた。
「ああ、昔孫子峰という男がいまして。彼は劉大将軍と並ぶ出世株だったのです。それなりに名が知れていたからご両親に聞いてみれば分かる筈です」
「そんな人が何故、分家の腰巾着と言われているんだ? 何があった?」
皓然が尋ねると少しばかり言い難そうにした。
「今のご当主様の父君が亡くなった日、お子が生まれたのです」
「梁当主には弟か妹がいたのか?」
「ええ、ただ死産だったのですが。時を同じくして夫君と御子を亡くされた奥様は気が触れて軟禁状態に。その時運悪く居合わせた側仕え達は責任を取らされたのです。その中のうちの一人に孫子峰もいました。彼は成人したばかりでまだ若かったのに出世の道を断たれたのです」
「そりゃああんまりだ!」
白楽は眉を顰めた。子供が死んだのは側仕え達のせいではないのだ。
「その後、孫子峰は明鈴様の側仕えとなり下男の様な事をしているそうです。それを揶揄して分家の腰巾着と呼んでいるのですよ」
「でも、何で明鈴嬢の側仕えに?」
「恐らく、孫子峰を憐れんだ梁忠敏様が迎え入れたのでしょう。お優しい方ですから。なにせ私等が明鈴様がお生まれになった事を知ったのはずっと後、長年子に恵まれなかったというのに奥方様を慮って禄に祝い事もしなかったようですから」
老いた使用人は溜め息を吐いた。
「でも、何故皆明鈴嬢の事を知らないんだ?」
白楽が尋ねた。
「末子が死産だったせいもあるのでしょうね。前当主は明鈴様をとても可愛がり、家の外にほとんどの出さなかったのです。病弱でいらした事もあるのでしょうが」
「前当主って梁篤明か?」
「はい。幼少期は特に過保護なご様子でした」
老いた使用人の言葉に皓然と白楽は顔を見合わせた。梁篤明は公明正大な人物で、誰かに入れ込むという印象がなかったからだ。
「病弱と言えば、梁明月もだろう? 明月に対してもそうだったのか?」
皓然が疑問を口にしたが、使用人の男は首を左右に振った。
「それは分かりかねます。なにせ明月様は他所で療養されていたそうですので、一時は亡くなったという話もあって、その……その年に生まれた子供は梁家当主に呪われているのではという噂も立ちました」
「なっ!?」
──何でそんな噂が立つんだ!?
その返答に唖然とした。何故当主が自分と縁戚関係に子供を呪わねばならないのか理解出来なかったし、そんな噂が立つことも信じられなかった。
「その間、明月が何処にいたかも知らないのか?」
唖然とする皓然の代わりに白楽が尋ねた。再び使用人は首を左右に振った。
「存じ上げません。明月様の祖父は元老院の梁義雄様です。妙な噂が立つのを嫌ったのでしょう」
顔を俯かせた使用人に二人はそれ以上尋ねる事はしなかった。
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皓然と白楽が梁家を去った後、劉の元を訪れる者がいた。白い仮面を被ったその人物は今の今まで話題に上っていた梁明月であった。
「──良かったのか?」
何がとは聞かなかった。
「構いません。幾ら探られようと此方には探られて困る様な事はありませんから。そうですよね?」
その声は微かに笑いを含んでおり、劉は眉尻を下げた。




