八名家の七不思議 其の四
「──あ〜あ、結局梁明月の弱点は分からず仕舞いか!」
「お前には羞恥心というものはないのか!」
劉大将軍の元を後にしてから、残念そう言う白楽に我慢出来なくなった皓然は怒鳴りつけた。
──何で此奴を置いてった!
その怒りは今此処いない郭清海にも向いたが、白楽曰く彼は所要で遠方に出掛けているらしく、数日は戻らないそうだ。
皓然この状況が、まだ暫く続くかも知れないと考えてぞっとした。
「でも、お前だって知りたかったろう? 梁明月の弱点」
皓然は「ゔっ」と言葉を詰まらせた。確かに彼自身も明月の弱点を知る事が出来るのならば知りたかった。でなければ、こんな馬鹿げた事に最初から付き合ったりはしないのだ。
「全く明鈴嬢の文がなければ、追い返されていたぞ!」
「それなんだよね~」
意味深に笑う白楽に皓然は顔を顰めた。
「明鈴嬢って何者なんだろうって話さ?」
「彼女は篤実の従妹だろう? 本家筋の娘」
「本当にそう思うか?」
「何を疑う事がある」
そう言って首を傾げる皓然に白楽はちょっと気まずそうに頬をかいた。
「いくら明鈴嬢が本家の筋の娘だとしても、相手は梁家の中でも地位の高い劉大将軍だぞ? ただの分家の娘の文一つで他人に梁家の内情を言う必要はないだろうって言ってるんだ」
「…………」
皓然は衝撃を受けて思わず黙ってしまった。それは白楽の言った内容にではない。
──他家の事情に首を突っ込んでいる自覚があったのか!?
という事である。その為、その後に続いた
「いや、まぁ一応俺もお前の兄弟子だろう? お前の見合い相手がどんな娘か気になるじゃないか……」
という白楽がボソボソと言った言葉は彼の頭に全く入らなかった。
「という訳だから! 明鈴嬢の事もついでに聞いてまわろう」
「何がという訳なんだ!」
仕切り直した白楽にはっとして皓然は言い返す。
「まぁ、分家の娘の事ならそのへんの奴にちょっと聞けば分かるさ」
そう言って軽い気持ちで駆け出した白楽だったが、その目論見は外れた。
道すがら数人の門下生に尋ねたがその殆どが梁明鈴という人間について何も知らなかったのだ。
白楽もこんな結果になるとは思っていなかったらしく、ただ目を丸くした。