八名家の七不思議 其の二
「明月将軍の弱点ですか?」
「そう! 苦手なものでも良いよ!」
「何故?」と言わんばかりに困惑している明鈴にいい笑顔を白楽は向ける。
皓然はその場で愕然とし固まった。
──何を言い出すのだ!
「いやぁ~、この張当主、実は明月将軍に対抗心を燃やしていてね」
「対抗心、ですか?」
明鈴は白楽と皓然とを交互に見て更に困惑している。
「えと、白楽様。お言葉ですが、明月将軍はあくまで一将軍に過ぎません。張家当主である皓然様が何故対抗心を燃やすのでしょうか?」
もっとな意見に白楽はにやりと笑う。
「それはね〜」
「いい加減にしろ!!」
更に続けようとする白楽にとうとう限界を迎えた皓然は気が付けば怒鳴りつけていた。
はっとして明鈴を見れば、目を見開いて固まっている。皓然は自分の失態に顔を青くした。
「というのは冗談で! 明月殿の御尊顔は八名家の七不思議の一つでしょう?」
「お前は!」
「七不思議……」
パンっと手を叩いて笑う白楽に皓然はぎっと睨みつけたが、彼は相変わらずどこ吹く風である。ちなみに八名家の七不思議とは、八名家に属する門下生間の噂話であり、7つ以上ある。
「兎に角、俺は仮面の下の顔がどんな顔か見てみたいんだ」
「はぁ、それと弱点とどんな関係が?」
明月の弱点自体は気になるものの、皓然は白楽の様に恥ずかしげもなく梁家の者に尋ねるのは憚られ、この話題をどうにか終わらせようとした。
「ただ見せてくれと言っても見せてくれないだろう? だから、弱みを握ってだなぁ」
「それは脅迫というのでは?」
明鈴の方も流石に引いていると皓然は思っていたのだが意外な事を言った。
「でしたら、当主篤実兄さんに尋ねれば良いのではありませんか?」
──弱点を知られるのは良いのか?
「えぇ~、梁当主は明月将軍に頼り切りと聞いてる。大事な明月将軍の弱点なんか教えてくれないだろう?」
「なら、劉大将軍に尋ねるのは如何ですか?」
「劉将軍とは親しくないんだ。いきなりこんなくだらない事を聞いたら怒られてしまうよ」
──なら聞くな!
と白楽を怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、目の前に明鈴がいる手前、それをどうにか我慢するしかなかった。
「でしたら、私が一筆書きましょう。それでしたら、劉将軍も快く答えてくれるでしょう」
そう言って、文を一通書き始めたものだから皓然は唖然とした。
「では、明月将軍の弱点が分かったら是非、私にも教えて下さいませ!」
いい笑顔で明鈴が言うものだから、皓然は彼女は「梁明月に何か恨みでもあるのではないか」と勘ぐらずにはいられなかった。




