八名家の七不思議 其の一
「──まぁ、何とも不思議なお話ですこと! その後どうなりましたの?」
「それはね……」
──俺は何を見せられているんだ?
張家当主・張皓然はきらきらと目を輝かせ話の続きを強請る明鈴と楽しげに語る白楽の姿を横目で見ながら面白くない何とも言えない面持ちでその場にただ座っていた。
郭家で土産を明鈴に渡した数日後、突然やって来た白楽に無理やり連れて行かれる形で再び梁家を訪れていた。
先触れは出したのか等々、気に留める間もなくやって来た梁家だが、断られることも無く茶を出され、今に至っている。
──俺は暇じゃない。
ならさっさと帰れば良いのたが、白楽と未婚の女を二人きりに出来るわけもなくただ置物の様に座っていた。
「──いやぁ~、明鈴嬢は聞き上手だがら話がいがあるよ!」
「白楽様が話し上手だからですわ!」
「どうせ、俺は話し下手だ」
皓然が悶々と考え事をしている内に白楽の話が終わったらしい。
聞こえてきた会話につい本音が漏れてしまった。それが聞こえてしまったのだろう。くるりと二人が揃って此方を向くものだから皓然は更に居心地悪くなってしまった。
「皓然様のお話もとても面白いですよ。特にあの鼬の妖魔の話も実に興味深かったですし」
「へぇ、良かったじゃないか。で、どう興味深かった?」
助け舟を出す明鈴に何かを思いついたらしい白楽がニヤリと笑って尋ねると明鈴は真面目な顔で答えた。
「鼬の妖魔は人を化かす有害なものですが、今回出現した妖魔は狂化していたとか。千頂山、或いはその奥妖魔が湧き出る妖魔孔がある妖峰山で何か異変が起きているのではないかと」
明鈴がそう答えれば、白楽は目を瞬かせたが、直ぐに唇を三日月の形に変えた。その表情に皓然は顔を歪めた。
白楽がその表情をする時は大抵碌でもない事を考えているからだ。そんな皓然を後目に白楽は更に問う。
「どんな異変?」
「若輩者の私にはそこまでは分かりかねますわ」
「そう。明鈴嬢は妖魔に詳しいね」
「そんな事は……。色々な方から聞き及んだ程度にしかございません」
にこやかに微笑む白楽に対して明鈴は恥ずかしそうに顔を俯かせた。
いい加減痺れを切らした皓然が白楽に対し「おい! いい加減にしろ!」と声を上げようとすると、顔を上げた明鈴が白楽に尋ねた。
「ところで、白楽様はどうして我が家にいらっしゃったのですか? 私にその様な話を聞かせる為ではありませんよね?」
「あ〜、勿論明鈴嬢に会いたかったからだけど、実は君に聞きたい事があって」
「聞きたい事、ですか?」
小首を傾げる明鈴に白楽はにっこり笑って言った。
「梁明月将軍の弱点を知りたくて」