序章
とある国に奇々怪々に魅入られた男がいた。男の姓は羅、名は羽、字は如水という。
彼は幼い頃から奇々怪々に魅入られていた。怪異に触れたいが為に仙人や導師といった道を志すも、いざ師事してみれば、彼は師に早々に見限られてしまう。
そんな事が何度も続けば、嫌でも己には才がないのだと悟る事になった。
そんな彼が代わりに目指したのが、学者の道であった。幸い彼の家は裕福であったので、勉学を修める分には周囲は反対しなかった。
羅羽は周囲の支えもあり、学者となったのだ。
しかし、学者となってからも奇々怪々への興味は相変わらずで、その内各地の奇々怪々な出来事を調べそれを書物に書き留めていく様になった。
そんな彼が新たな奇怪な噂を耳にして、とある地へ赴いた時の話である。
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草木の生茂る険しい道を歩いていると、ぽつりぽつりと雨が降り出した。雨足は次第に強くなり、羅羽は何処か雨宿りする場所はないかと周囲を探した。
彼がいるのは険しい山奥である。巨木の虚か洞窟でもあれば良いと思っていたところ、幸いにも古びた廟を見つける事ができた。
──ほぅ、こんな所に一体だれが参拝しに来るのやら? だが、丁度良い。
羅羽は訝しみながらも周囲には他に雨宿り出来る場所もないので、その門を潜った。
いざ、廟の中に入ってみれば、綺麗に掃除されており祭壇には供え物が置かれている。
──もしや、この廟に来る為の道は別にあるのか?
羅羽は自身の通って来た道を思い浮かべた。
険しい道はとてもじゃ無いが、羅羽の様な変わり者の旅人か修験者でもなければ通りそうにない道で、道中も誰ともすれ違わなかったのだ。だというのに、廟のの祭壇に供えられた果物はまだ瑞々しく、先程まで誰か居たような様相なのだ。
羅羽が興味深く廟内を見て回っていると、ふと視界の端に人影が映った。
「!」
そちらを見るといつから居たのか身奇麗な女人が一人佇んでいる。
「おや、貴女も雨宿りか?」
羅羽は驚きつつも女に話し掛けた。
──供え物を置いたのは、この女人か? やはり、地元のものの使う道がきっと在るのだな。
「ええ。急に雨が降り始めまして。この辺りではお見かけしないお顔ですね」
羅羽は一人納得しつつも、女が彼を羅羽を訝しんでいる様子を感じ、女の警戒を解く為に自身が学者である事、奇怪な噂話を集めている事を話した。
「──まぁ、そうでしたのね。だから、この様な辺鄙な場所に」
幸い女は納得したようで、羅羽も内心ほっとする。
「ええ、貴女も何か奇妙な話をご存知ありませんか?」
羅羽が尋ねると、女は少し考えてから口を開いた。
「──では、こんな話はどうでしょう?」