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番と旅路

お久しぶりです。

 宿についても、アズはぐすぐすと泣いたままだった。まあ無理はない、元の世界に帰られないと受け入れるまでに、きっとアズはこれから何度も涙をこぼすだろう。エデュアルドがいつも隣に居てやればいいことだ。


 買ったばかりの小さな靴を脱がせて、ベットに寝かせようとして、アズの小さな手がエデュアルドの服を握っているのに気がついた。――この世界でアズにとって頼れる大人がエデュアルドだけだから。他に選択肢がないから、頼られているに過ぎないのは分かっているが、満更でもない気持ちになる。

 アズを胸に抱えたまま、ベッドに腰掛ける。しばらくそうしていると落ち着いてきたのか、泣き止んできた。


「アズ、ほら、顔ベタベタ」

「おにーちゃ…」


 涙で汚れた顔をふく。長いまつげにキラキラと涙が光っているのを綺麗だと思った。


「おにーちゃんは、いなくならない?」


 ぽつり、とアズが消え入りそうな声で言う。


「いなくならない。ずっと一緒だ」


 即答した。アズが思うより重い意味がこもった気がするが気にしない。


「…そっかぁ」


 アズの顔はエデュアルドの胸に埋もれていて、表情は見えないが、何となく今は泣き止んでいる気がした。




 ▷▶︎▷




「アズ行くぞ!」

「しゅっぱつしんこー!」


 そんな掛け声と共に旅立った。

 帰るルートをどうするかは悩ましかったが、知らない街にアズといくのが心配だったこと、商人が商売目的に立ち寄るような大きめの町を経由した方がアズも楽しいだろうと思い、ルトマールたちと訪れた街を巡るようにして帰ることに決めた。


 通ったはずの道、訪れたはずの街だったのに、アズを通して見るだけで全く違ったものに見えた。世界が色づく、なんて陳腐な言葉がピッタリだと思えるくらいには、エデュアルドの世界は鮮やかになっていた。


 夜になると里心がつくのかアズが泣いてしまうこともあったが、その頻度も徐々に減っていく。はじめて泣かずに眠りにつけた日は嬉しくて思わず寝ているアズを抱きしめた。

 

 大人だけであれば1ヶ月もせず着く行程だったが、アズの体調を気遣い、それぞれの街での観光もしていたら、生まれ故郷に着いた時には季節が2つ巡っていた。




 ▷▶︎▷




「ここが、おにーちゃんの、まち…」

「いままで見てきた街に比べたらちっせーけどな」

「あず、ここがいちばーん、すき!」

「まだ来たばっかだろ」


 はしゃぎながら歩くアズの後ろを、見失わないように歩く。

 8歳という年齢のわりに小柄なアズ――最も、エデュアルドの知っている8歳は弟妹であり、獣人なので比較的大柄なのでそう思うだけかもしれないが――は、人混みの中をキョロキョロとしながら歩く。

 知らない街では何かあってはいけないと手を繋いで歩くようにしていたが、勝手知ったるこの街でならいいだろうと好きにさせていた。――もちろん、何かあればすぐに対応出来る範囲内でではあるが。

 

 ふと、アズの歩みが止まる。歩調を合わせていたエデュアルドの足も止まった。

 くるりと振り向いてアズがエデュアルドの所に走ってきたかと思うと、エデュアルドの右手を両手で掴んだ。


「やっぱり、おにーちゃんとてつないでたほうがいい」

 

 ……。かわいい。

 番だからというだけでない、アズがかわいい。

 ――もしアズが番でなくとも、可愛いと思えて、好きになっていただろうと、エデュアルドは思うのだった。




 ▷▶︎▷




「ここー?」

「ああ、そうだ。久しぶりだな」


 まず立ち寄ったのはエデュアルドの生家だ。4年弱前に家を飛び出て、数度しか帰っていない。最後に帰ってからは実に1年以上が経っていた。

 今も変わらず、両親と弟妹が暮らしているはずだが今は日中だからか家には誰もいないようだ。


 アズと手を繋いだまま庭にまわり、高い位置にある植木鉢の1つをずらして予備の鍵をとった。それを使って家に帰ると、久しぶりの実家の匂いが鼻腔をついた。


「おにーちゃんのにおいするね」

「…そうか?」


 すんすん、と自分を匂ってもわからない。犬獣人なので鼻は効くはずなのだが。


「うん、いつも寝る時にぎゅーってしたらこのにおいだよ。

 あず、このにおいすき!」

「……そうか」


 躊躇いなく言いきられて、たじろぐ。尾が勝手に揺れそうになるのを、意志の力でとどめる。

 アズは思ったことを素直に口にする子どもだった。好意を照れずに口にする。――対するエデュアルドは、番からの好意はもちろん嬉しいのだが生来素直ではない性格なのでいつもぶっきらぼうに返してしまう。


 内心に渦巻く好意はまったく顔に出さないまま、アズをエデュアルドの自室に案内する。どさり、と旅の荷物を置くと床が軋んだ。

 誰かが掃除をしておいてくれたのか、部屋は埃ひとつなく清潔だったが、私物の位置はそのままで懐かしい気持ちになる。


「ここ、すごくおにーちゃんのにおい」

「俺の部屋だからな」

「これなあに?」


 エデュアルドが荷解きをする横で部屋を物色していたアズが箱から何やら取り出した。


「ん? あー、危ないから触んな。昔使ってた折りたたみナイフだよ。

 やっぱ使わないと錆びるな、捨てるか」


 アズの小さな手に余るほどの大きさのナイフを取り上げる。その刀身は柄に収まっていても分かるくらい錆がまとわりついていた。


「ねえねえ、これは?」


 ナイフから興味のそれたアズがまた箱を漁っている。


「俺は片付けがあるからしばらく大人しくしててくれ。ナイフはもうねえと思うが危ないものがあったかもしれないし…。

 ほら、疲れたろ? ベッドで横になってろ」


 箱に頭を埋める勢いのアズを抱き抱えて、ベッドに座らせる。はぁい、とアズが靴を脱ぎながら返事をする。


「ふふ、ここもおにーちゃんのにおいだー」


 枕に顔を押し当てながらアズが言う。その枕を使ったのはかなり前のはずなのだが、なんだか気恥ずかしい。

 それを誤魔化すように作業に没頭していると、ふとアズが静かなことに気がついた。目をやると、アズは安らかな寝息を立てていた。

 つるりとした頬にかかる細い髪の毛をはらって、毛布をかけた。

 異世界転移してからの長旅だったので、アズの小さな体には負担だったはずだ。いまは休めるよう、エデュアルドは物音を立てないようにしながら作業を再開した。

本当にご無沙汰しています。

ちまちま書いてはいるのでマイペースではありますが載せていきます。

よろしくお願いします。


更新のない間も、評価、ブクマ、また読んでくださっていた方々のお陰で続きがかけています。ありがとうございます。

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