番と飯を食う
喉が潤って、昨日の晩から泣き通しだったアズは落ち着いてきたのかスンスンと鼻を啜りながらも泣き止んだ。
きゅぅ、とか細くアズの腹が鳴る。
「腹すいたよな、何食い…」
たい、と続けようとして思いとどまる。
アズの望む異世界の食べ物、…まして母親の手作り料理など所望されても叶えてはやれない。
せっかく泣き止んだところに元の世界を連想させて、里心をつかせる必要は無いだろう。
「…まあ、とりあえず行くか。あ、てかそもそも靴がねーな」
ベットの上に座らせたアズがぷらぷらと裸足の足をあそばせる。足の裏は柔らかで、裸足で歩こうものならすぐに傷だらけになるだろう。
「んー、まずは飯、次に靴だな」
頭の中で予定を立てながらアズを抱き上げた。
昨日の夜、帰られないと知るまでは元気に反応していたアズだったが、さすがに元気がなく口数がかなり減っている。
「よし、いくぞ」
反応の有無は気にせず、話しかけ続けることにして、エデュアルドとアズは外へと向かった。
▷▶︎▷
普段は行かない、小綺麗な街の中心部の方に歩く。宿の近くの飲食店はさびれた所が多いので、アズを連れていくには適していないと考えたのだ。
幸い雨は止んでいて、昨日の土砂降りのお陰か空気も澄んでいて気持ちのいい朝だった。
アズは景色が珍しいのかキョロキョロと当たりを見渡している。
「気になるものがあったら言えよ。後で見に行こう」
「…うん」
(さて、何を食うかな…)
この国は雨が多く寒い気候であるので、根菜類をゴロゴロ入れたスープが名物だ。大抵の店で扱っている。
「アズ、なんか食えねーものあるか?」
「ない」
「芋は食えるか?」
「おいも、すき」
それならばと、店の表にだされたメニューをいくつか確認して、芋料理が幾つかあるところに入ることにした。
通された席で、アズを椅子に座らせる。ずっと抱えていたのでアズの居なくなった所が急に寒いようだった。
「おにーちゃんとあたってたとこ、あったかい」
「…ああ、そうだな」
アズが同じことを思っていたことが嬉しくて、思わずにやけそうになる口を隠した。
メニューを持ってきた給仕に、そのまま幾つか料理を頼む。
名物のスープは大人はそれに香辛料をいれて辛い味付けにもするそうだが、アズも食べるので香辛料はなしにした。
しばらくして、できたての料理が運ばれてきた。
「おいしそう!」
昨日と同じとまではいかないが、少しずつ元気を取り戻してきて居る様子に安心しながらエデュアルドはアズに食べるように促す。
「あふくて、おいひい」
揚げた芋を頬張りながらアズがいう。口いっぱいにしながら芋をかじる姿はさながら小動物のようだ。
「…ゆっくり食え」
近くに水を置いてやりながら、汚れた口周りを拭く。
「おにーちゃんは、たべないの?」
「あ、ああ、食うか」
…アズを見るのに集中しすぎて、自分の食事を忘れていた。指摘されて初めて気づいて、誤魔化すようにエデュアルドも芋を口にいれる。芋はどこか甘くて、いつもよりうまく感じた。
▷▶︎▷
食事を終えて最初に向かったのは、商人たちの集う市場だ。その中の、エデュアルドがここに来るまでに護衛をつとめた商人たちの天幕へと向かう。
「おお、エデュアルド! どうした…」
エデュアルドを見つけて声をかけてくれた商人――アルトルのセリフが途中で途切れる。アルトルの視線の先にはアズがいた。
番としてアズを紹介しようと口を開きかけて思いとどまる。…アズがエデュアルドの番と知ってしまうと、いつかエデュアルドの番であるがためにこの世界に来てしまったということが結びつくかもしれない。もう少しアズが成長してから、番である事と《片割れ》について伝えればいい。改めてそう考えて、アルトルの詮索の目を今は気にしないことにした。
「この子にあう、靴や服をみせてくれ」
「…後で説明しろよ。こっちだ」
「ああ。あと、ルトマールに会わせてくれ」
「わかった」
ルトマールは商隊を率いる商人で、アルトルの父親だ。
案内された先で、女の商人にアズの服を探すように頼んだ。服をあてがわれている間、ルトマールに会いに行くことにする。
「アズ、ここで服選んでろな」
「おにーちゃんどこいくの?」
「すこし人に会うだけだ。すぐ戻る」
「や、あずもいく!」
あわせられていた服に見向きもせず、アズがエデュアルドにしがみつく。……正直悪い気はしなかったが、今から話す内容はわざわざ聞かせなくてもいい話だ。
アズの目線と合うように腰をかがめて、目を見ていう。
「今からちょっと大事な話してくるから、待ってろ。
絶対迎えに来るから」
「ん〜…、はぁい……」
渋々、といった風だがアズが了承する。ぽんぽん、とアズの頭を撫でると、しがみついていた腕を離した。女商人にアズを頼む、と伝えてからアルトルの方へ向かった。
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