番が幼女だった。
番ものが好きなのでかきました!
2人の恋の行方を書ききれるよう頑張ります。
獣人は、番に焦がれる。
どこにいるかもわからない、どんな相手かはわからない、出会えるかすらもわからない相手を、この世に生を受けてからずっと求めている。
エデュアルドも例に漏れずそんな獣人のひとりだ。
人間の父と、犬獣人の母。父も母もエデュアルドを大切にしてくれたが、2人の《1番》はお互いで、エデュアルド含め子供たちは2番だった。しかし、それに不満はなかった。獣人にとっての番とはそういう存在であるし、そのことはエデュアルドも本能的に理解していたからだ。
…あえて言うのなら、重たいとか粘着質とされて敬遠されることもある獣人の愛を受け止め、さらにそれ以上の愛情を返す番を得た母を、同じ獣人として羨望しただけだ。
そんな2人の間で育って、15歳で家を飛び出した。
弟妹は寂しがったが、両親は番がみつかるといいな、と送り出してくれた。
獣人の体格や運動神経の良さを活かして、商人や旅人の用心棒として各地をまだ見ぬ番を求めて転々とした。
――3年経った今も、番は見つかっていないけれど。
▷▶︎▷
その日は雨の振る日だった。
雨は嗅覚が鈍るので好きでは無いが、用心棒として商団に着いてやってきたこの国では雨が多いようだった。雨が降っていない時も鉛を貼ったような曇り空で薄暗いことが多い。
街と街との移動以外は基本的に自由行動が許されているので、適当に時間を潰すようにしているが、こうも雨が続くと宿に篭もりきりになってしまう。
気分をかえようと宿の近くの繁盛していそうな酒場にぶらりと入った。
「ね、おにーさんひとり?」
注文を済ませたところで人間の女が頬を染めて話しかけてきた。
エデュアルドは見目がいい。灰色の艶のある髪も、薄い青の瞳も、通った鼻筋も、今まで幾度も賞賛されてきた。自慢のようだが、番の歓心を得るために大体の獣人は美形であるし、エデュアルドも同様に容貌が優れているだけだ。
とはいえ、獣人は番以外の異性には基本的に無関心である生き物だ。いわゆる生殖活動は番を見つけ出す前であれば番以外とも行うことはできるが、番以外に恋愛感情を抱くことはないので、真剣な恋愛をしたいのであれば獣人を口説くのは母国のランドラックでは時間の無駄とされていた。
考えようによっては、後腐れのない見目のいい遊び相手にもなり得るので、エデュアルドもよくこうして声をかけられる。
「――他を当たってくれ」
それだけ言って、女のことは無視することにした。しばらく何か話していたが、エデュアルドが返事をしないので諦めてどこかに言った。
さっきの女が、番であれば。こんなさびれた酒場は後にして街で一番の食事処で、言葉の限りを尽くして口説いたのに。さっきの女でなくてもいい。給仕の女でも、厨房にいる女でもいい。
そんなことを考えるのはもう何度目か数え切れない。3年あちこち探しても、エデュアルドの番は見つからなかった。
番が見つからない、ということはままあることだ。見つからない、見つけられないまま一生をひとりで終える。もしくは番ではない誰かと妥協で添い遂げる。
まだエデュアルドは歳若いけれど、それらの可能性はない訳では無い。これだけあちこち探しても見つからないなんて、――もう会えないのでは。そんな風に思うこともある。
けれど諦めるということは、番に出会えないことを受け入れるということで、その決断はまだ下せなかった。
嫌な思考が止まらず、憂鬱な気持ちで食事を済ませて酒場から出る。まだ雨はザアザアと降っていてさらに陰鬱とした。
コートのフードを深く被って、雨の中を歩く。防水のブーツが水を弾くのをいい事に、水溜まりも避けずに歩いた。水しぶきが跳ねるが気にしない。
安いホテル街の近くにある安っぽい繁華街は、それでも人が溢れている。そんな溢れる人の中で、ふと、建物と建物の間の細い路地に目が止まる。
(…なんだ?)
なんの変哲も無いはずの路地がやけに気になって、理央はそちらに近づいた。
すん、と匂いを吸い込む。
(――この匂い、まさか…)
雨の匂いに混じってそれでも強く香るそれに、はっとして走り出す。フードが風に煽られて脱げる。そのせいで大粒の雨がエデュアルドの顔を容赦なく濡らすが、そんなことは気にならなかった。
路地を進むに連れて、濃くなる匂いに動悸がはやくなる。
(だれも、いない…?)
視線を辺りに巡らせる。
一番匂いが濃いのでここら辺りだと思うのだが、肝心の姿が見えない。
すると、地面から声がした。
「おじちゃん、だぁれ?」
「うわっ?!」
無警戒だった方向から声をかけられ、思わず驚きの声をあげる。
声のした方へ視線を下げると、そこにはストンとした黒髪に大きな茶色の瞳の少女がいた。
エデュアルドと少女の目が合って、――初めて目にした番を前に考えるように少女をだきしめた。むせ返るような番の匂いに目眩がするようだった。
「…」
力が強すぎたのか、少女が無言のままエデュアルドの腕の中で身を捩る。
「あ、あぁ、わりぃ」
腕から力を少しだけぬいて、また少女と目を合わせた。目は大きくぱっちりとした二重で、頬はふっくらとしていてほんのりとピンクに色づいている。ぷるぷるとした唇は乾燥などとは縁遠い。
しかし、その髪は重く水を含んでおり、纏っているのは見た事のない形の服だ。その服も水を含んでずっしりとした印象になっている。
というか。
「おじちゃんってなんだおじちゃんって。おにーちゃんと呼びなさい。まだ18だぞ、お前からみたら年上だろうが…」
そこまで言って、はたときづく。
「…お前何歳だ?」
「はっさい!」
拝啓、親父とお袋へ。やっと見つけた俺の番は、まだ幼女でした。
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