昔話
「あの頃、ダンジョン出現後しばらくは手探りだったの。
例の大国では超人的な者が出てきたと言われたけど、不確かだった。
そのうち各国から同様の人たちが現れて証明されたけどね」
林教官も普通にうなずく。
「『アフれ』が本格的になってからは……思い出したくもないわね。
それからは大体は知ってると思うけど、幸いに社会のインフラは無事だった。
そして……生き残った自衛隊員達が新しい組織『討伐隊』になったのね。
かなりの人が人間離れした力やスキルを手に入れていた」
「こいつはAランク、日本のトップクラスだ。
今はダンジョンよりも隊全体の縁の下の力持ちに徹してくれてる。
いい歳だしな」
「あなたの方がもっと上でしょ!
……あっごめん」
「こいつは狂ったようにダンジョンに潜ってたからな。
私の場合はステータスが伸びず、限界を感じていた。
スキル無しでも身体能力で何とかできれば……。
北村、後は頼む」
「『アフれ』が落ち着いた頃ね。
ステによる身体能力の差が目に見えて分かるようになったのは。
鑑定持ちは散在してたから、きっちり特定されるまで間があったの」
話は続いた。
林教官も能力の高いパーティーに頼み込み、レベル上げしていた。
剣士である彼女は、なんとなくは気づいていた。
他のメンバーに動きが追いつけていないことに。
オーガの出現した時だった。
前衛のリーダーのちょっとしたミスで一気にガードを超えられた。
中衛の林は敵に無視された。
魔法攻撃は避けられ、後衛2人は全滅。
更に林は無視され、リーダーと盾メンバーは援護の無いまま翻弄されていく。
どうすることもできなかった。
残り一人となった林に、舐めたようにゆっくり迫るオーガ。
はっきり笑っていた、と林は思ったそうだ。
そこへ。
生きていたリーダーが、取って置きのMP全消費スキルでオーガの首へ一撃。
オーガは林を見て油断しすぎていた。
鑑定など使わなくとも、弱者と解っていたのだ。
リーダーはMPの代償で気を失いオーガの最後の怪力で上下に千切れた。
そして、林は安全地帯までやっとの思いで逃げ延びた。
ショックに打ちひしがれ、宿舎に閉じこもった林に届いた報せは。
・ようやくまとめれたステータス初期値とその伸びのデータ
・各都市に可能な限り割り振られる【鑑定】所持者
林は思い出した。
初めてスライムでステータスを得た時の、7と8ばかりのステータス。
ダメ押しは鑑定されたその当時のデータ。
同レベルの平均隊員の3分の2程度であった。
活躍している隊員との差はもっと歴然だった。
その後、トラウマのせいか林教官にも【鑑定】が芽生えた……。
「林先輩……教官とは毎晩話し合ったの。
君のいる間は休みも取らずにね。
そのステータスにも関わらず、君が特別視、いや実験台になることを回避できないかって」
「浜辺、すまなかった」