ランク
林教官は『称号』の件のあと、すぐにどこかに行ってしまった。
残されたのは北村さんと僕だけ。
北村さんは軍隊調の言葉遣いも無いので話しやすかった。
「あのー。お二人の階級とかお聞きしてないのでは?」
僕から尋ねるのもおかしいが、確かに聞いてないはず。
「自衛隊のあった頃は私が部下だったけどね。
今は私がAランクで林教官がCランクね。
Cって言っても上位数パーセントだから凄いのよ」
ランク?
しかも北村さんはAランク!?
日本でのランクの存在なんて初耳だ。
海外ではギルド制でランクがあるのは知っていたが。
7年前ダンジョンが世界に出現した時。
殆どの国で、ダンジョンは軍隊の管理下に置かれた。
あの近隣大国ではさぞ厳しい規制下に置かれると多くが予想したが。
なんと探索は自由とされたらしい。
詳しい人の解説では一党独裁体制のもと、事件事故の死傷者は隠す。
だが一方で、そもそもは一般人民は使い捨てなのだそう。
一例を挙げると、地方民は戸籍に農民と登録され職業も選べない。
世界的に財宝のたぐいがあると言われたダンジョンへ人民は殺到した……。
莫大な死傷者が出たが、それはそれぞれ自らの責任。
そのうちに十傑などと称される超人的な探索者が現れた。
10人に収まらず、その国の探索者は動画などで世界に喧伝されるように。
一部は特撮などのフェイクだったりもしたらしいが。
問題はそこからだった。
全世界でダンジョンからモンスターが溢れ出し、住民を襲う事件が多発。
例の『十傑』を擁する国では溢れの被害が極端に少なかったのだ。
それは各国メディアや企業の駐在員によっても確固とした事実と証明された。
それを承けて、各先進主要国が自主探索者を募った。
それ以前から各国に探索者はいたし、『探索者協会』もあったけど。
企業や研究機関がグループとなって支援するようになった。
結果、『探索者協会』は世界で共通する本格組織となった。
その基本システムは物語世界でのギルドに近い。
Sを頂点として、AからFまでのランクによる評価制度もそのひとつ。
その流れに乗れなかった、乗らなかった、どちらなんだろうか。
結果として国による討伐隊のみが存続するのが我が日本。
通常レベルで訓練された人員は粒ぞろい。
だが、海外のようなエリート探索者はほぼいない。
自衛隊が存在した当時、バリケード作成等世界トップレベルの技能を持っていた。
避難等もパニックになりにくく暴動もほぼ無かった。
それからの自然の流れだったらしい。
現在、モンスターが溢れる現象は『アフれ』という表現をされる。
それだけ慣れ親しまれた言葉だ。
最大のアフれでは、米国のSランクが応援として呼ばれた。
その一度のみで済んでいるのは世界でも不思議に思われているらしい……。
エースと呼ばれような討伐隊員が不在の日本で。
「ああ、今出ている実録本にはまだランクは出てきていないわね。
別に守秘義務もないし、情報は公開しているんだけどね」
「隠してないんですか?
あれだけ目ざといマスコミでも報じてないような気がしますが」
「隊員が誰も内部の事を喋らないんだろうね。
日本は世界から羨まれているし、ね」
ダンジョンが出来てから7年、大きな地震らしいものは皆無。
最初の世界地震以来、地質活動は落ち着きまくっている。
例の大国との紛争はあったにはあったが……。
そして、日本の討伐隊員はある意味羨望を受けている。
持ち帰ったアイテム等は国のものだが、必要に応じて支給はある。
平時であれば勤め人のように勤務して、1000万程度の年収。
命懸けだから当然とも言えるけれど。
海外ではギルドに収穫を納品して金銭やアイテムを得られるから、格差が恐ろしく大きい。
なぜ日本だけが災害を免れて得をしているのか。
国民性もあるとはいえ、Sランク不在で大きな被害を免れているのか。
彼ら海外勢曰く、『神に愛された国ニッポン』。
……らしい。