ズレ
※昨日6/13 00:00に続き、今日最初の更新です。
■今回から、ある程度キリのいい長さで「原則一日一回更新」にします。
執筆に時間を取られすぎでしたので、ご容赦ください。
「とりあえずは水面下での法案作成になりそうです。
月~金曜の17時以降、都合がつけば手伝ってもらえますか。
今日の件がうまく行けばの話ですが」
井上議員から頼まれた。
それはいいが元総理と話したい……。
今日は無理のよう。
「もう終わったんです?」
少しバックして入り口から離れていた生見さんの車に乗る。
後で知ったが。
10数分遅れになった総理会見では、特に何も無かった。
「クリーンエネルギー法案はそのまま」
との事、ダンジョン関連の質問には答えなかったよう。
波風を立てないよう気をつけつつ継続、みたいだ。
一安心。
帰ってきた。
全員で、すっかり溜まり場になった僕の部屋でくつろぐ……。
夕食の相談だ。
電話、また井上議員から。
この人、本当に忙しいのか?
いや、こまめに連絡してくれてる、そういう役目だ。
北村さんが自衛隊を辞めさせられたらしい。
無断外出による懲戒免職……、でっちあげだ。
本人は申し開きするのも馬鹿らしいと言っているそう。
なにせ、陸上幕僚長の差し金。
手続き等々、めんどくさいし時間がもったいないんだと。
それより、無給でいいから“こっち”に参加したいそう。
生見さんにすぐに言うが、『絶対大丈夫』らしい。
自衛隊の探索者トップ、かつ日本の探索法案の最大功労者。
そう伝えるそう。
僕からもメールしておこう、通訳さんに。
ついでに、探索者の育成について軽く話す。
最初はゴブに勝てる程度までで止めておく。
時期が落ち着いたら個々の探索へ。
そう話すが。
『なんでそんな必要が?』
要領を得ない井上議員。
探索希望者の犯罪歴などきっちり調べる。
武器はまずは国が管理、猟銃のような免許制は追々考える。
そこは一致した。
今長話ししても仕方ないので、またということで電話を切る。
生見さんにも探索者育成について話す。
一旦ゴブリンに勝てる程度で様子を見る話をするが。
分からないでもない、でもわざわざそんな必要があるのかと言う。
探索者の能力が『兵器のような力』であることは分かるはず。
ユイと僕の2人と、それ以外の人間になにかズレが有る?
最初は単に“時間を遡って来た”感覚の違いかと思ったが。
確かにそう、だがもっと決定的な事実に気付いた。
“経験の差” だ。
僕達は未来の『討伐隊』にいた。
だから、Bランク探索者クラスの力を目の前で見ている。
だが今の人々は、魔物の『アフれ』さえ実際には見ていない。
認識にズレが有るのはそういう事だろう。
だから総理にも北村さんの能力を見せた。
それに便乗し、逆に利用した僕も僕だけど。
それに……。
確かに、仲間内では北村さんの速さを。
総理の前では僕らもスキルを見せた。
だが、それだけだ。
ビックリしたようだが、単に速いのと初めて見た魔法。
実際に魔物との血まみれの戦闘など見ていない。
例えば、国会で証人喚問されあの能力を見せたなら……。
重箱の隅さえつつく、野党の攻撃があっただろう。
しかし、見たのは総理1人。
小心者っぽい(?)総理には安心できるよう言ったつもりだが。
あの【会話】スキルにどの程度効果が……。
いや、大事なのは言葉そのもの。
スキルは小手先だ。
『命を捧げる覚悟』と、重い言葉を総理に言ったが。
多くの探索者の育成がムリなら、どうせ全員死ぬ。
ただそれだけの事……。
すぐには無理でも、いずれ真意が伝わることを祈るだけだ。
“認識のズレ”に戻そう。
いつか、ある程度レベルの高い者が殺人等犯す事もあるだろう。
そういう事が起これば、多くの人に危険性が認識されるのだろう。
『アフれ』はどうだろう。
魔物の被害とともに、探索者は頼れる存在と思ってもらえるだろうか?
だが一旦、探索者がいても当然という空気ができれば。
それに馴染んでしまうのだろうか。
昔読んだ『現代探索者』のラノベを思い出す。
最初からそういう世界なら簡単だったんだろうな……。
自分で意味がわからない。
パラドックスに入り込んだような変な感覚だ。
「ヨウ、北村さんこっち来るって。
一緒にレストラン行くから予約とかするね。
時間たっぷりあるから、とりあえずおやつタイムで」
「きょうおやつあるのですね。
よかったです」
ヨッシーの日本語がますます冴え渡っている。
おそるべし。
お読み頂きありがとうございます。
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