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39 推しの今後1

 翌日フォルクハルトは、王都の王宮魔導士本部へ応援を頼むために護衛の一人を使いとして向かわせた。

 いつ凶悪な魔獣が襲って来るかわからないので、フォルクハルトが婿入りし領地を譲り受けるまでは王宮魔導士の派遣が必要になる。

 そのため王宮魔導士が領地へ到着するまではフォルクハルトがここに留まる必要が出てきたので、二泊で帰路につくはずだった新婚旅行も延長されることとなった。


 その間フォルクハルトはひたすら領地視察に明け暮れたが、危険がなさそうな場所へはフィリーネも連れて行ってもらえて、推しと初めて馬に二人乗りする体験もできたし、幼い頃の思い出の場所をフォルクハルトに案内することもできた。


 留守番せざるを得ない時のフィリーネは、推しの布教も忘れなかった。

 持参してきたちびフォル様ぬいを子供たちに配ったり、持参してきたカードサイズのフォル様の絵を領民に配ったり。

 スケッチブックに書かれたフォル様の絵は祖父母に贈呈して、食堂の目立つ場所や玄関の目立つ場所などに飾られた。


「飾ってもらえるのはありがたいが、これでは俺が当主のようだな……」


 視察から帰ってきたフォルクハルトが玄関に飾られている絵を目にした時は、少し困った表情を見せていた。

 代々貧乏なこの男爵家には歴代当主の肖像画などもちろんあるはずがなく、絵と呼べるものはフィリーネが贈呈したフォル様の絵が初めて。

 その絵がフォルクハルト自身ということが申し訳なく感じたが、フィリーネの祖父母は孫娘の隠れた才能を大いに喜んでいる様子だった。


 フィリーネの夫でありこの領地を救ってくれることになったフォルクハルトは、フィリーネの布教効果もあり領民から急速な人気を得ていた。

 特に女性達からの人気は絶大なもので、多くの同担を得たフィリーネはここに引っ越しても充実したオタ活ができるのではと期待に胸を膨らませた。




「あっという間にお別れで寂しいわ」


 王宮魔導士が到着する日の朝。フィリーネ達は入れ替わりで出発することとなった。

 できれば王宮魔導士を出迎えてフォルクハルトがおこなった視察の内容を詳しく話したかったが、残念ながらこの塔はフォルクハルト達が退去しなければ王宮魔導士の泊まる場所がないので、入れ替わりで帰るしかないのだ。


「次に会えるのは、フォルクハルト様をお婿さんする結婚式かしら?」


 別れを惜しむように抱きついているフィリーネに、祖母は嬉しそうに微笑んだ。


「そうなると嬉しいけれど、最終判断はお父様だわ」

「心配には及ばんよ。フォルクハルト様をぜひ婿にと、俺も一筆書いておいたからな」


 祖父は自信たっぷりなようすで、フィリーネの頭をなでた。


「フォルクハルト様、どうか孫娘と領地をよろしくお願いいたします」


 頭を深々と下げる祖父母を見て、領民も同じく頭をさげた。

 フォルクハルトがこれまでの結婚について、どう祖父に説明したのかはフィリーネは知らない。

 けれどこうして信頼して領地を任せようと思えるだけの信頼は、祖父から得られたようだ。


「任せてください。愛するフィーのためなら、俺はなんだってやってみせますよ」


 貴族らしく堂々とした態度で宣言するフォルクハルトは、とても頼もしく思えて祖父母や領民は羨望の眼差しを向けたが、フィリーネだけは恥ずかしくて馬車に逃げ込みたくなった。




 帰路についた一行は、男爵領を抜ける直前で王宮魔導士達の馬車と合流した。

 最寄りの町から領主の屋敷までは一本道なので必ず出会える。フォルクハルトはその時に視察の報告と指示を出すつもりでいた。


「フィー、新婚旅行は楽しんでる?」


 ちょうど昼食時だったので食事をしながら打ち合わせをおこなった後、フォルクハルトはフィリーネとライマーが二人きりで話せるように配慮してくれた。


「えぇ。フォル様は毎日優しくて、楽しく旅をさせてもらっているわ」


 ライマーとはしばらく会えそうにないので、フィリーネは旅の思い出を事細かく話して聞かせた。

 様々な場所へ連れて行ってもらったことやサプライズ的な出来事、改めて思い出してみてもフォルクハルトはフィリーネのために多くの楽しみを用意してくれた。

 これ以上ない素敵な新婚旅行を用意してくれたことに、感謝の気持ちでいっぱいになる。


「フィーが幸せそうで俺も嬉しいよ」


 ライマーはそう微笑みながら、フィリーネの髪の毛を留めているバレッタに視線を向けた。

 フォルクハルトが贈ってくれたのだと、先ほど大切そうにバレッタに触れていたフィリーネ。

 それを目にしたライマーは複雑な気持ちになった。

 ライマーは自分の恋心を悟られてしまうのが怖くて、フィリーネにそのような贈り物をしたことは一度もなかった。


 自分が贈ったものでも、同じようにフィリーネは喜んでくれたのだろうか。

 今更知りたいと思っても、フィリーネはもう人妻。ライマーから贈り物をするなどもう無理な話だった。


「兄様にはお礼を言わなければ。兄様が演習場へ誘ってくれなければ、きっとフォル様との関係は変わらなかったと思うの」

「俺がしたことは些細なきっかけに過ぎないよ。その後の急接近は、どちらがどう仕掛けたのか気になるけど」


 からかうように笑うライマーの視線を浴びて、フィリーネは頬を赤くした。

 ぐいぐい距離を縮めようとしてくるフォルクハルトには大いに心を乱されたが、最後の一押しを仕掛けたのは自分だったなんて、とてもじゃないがライマーには話せない。

 自分から抱きついて愛を叫ぶなど、この世界の女性らしからぬ大胆な行動をしてしまったと、今更ながら恥ずかしくなる。


「兄様ったら、からかわないで……」

「ごめんごめん!フォルク様もそういうことは教えてくれないから気になっちゃってさ」

「私達より、兄様のほうが心配だわ。良いお相手はいらっしゃらないの?」


 ライマーもこの作品ではイケメンの一人だというのに、完全に適齢期を過ぎている彼が心配でならなかった。


「俺は……、結婚はいらないかなぁ~……なんて!俺の理想はめちゃくちゃ高いんだよ。国で一番の美女じゃなきゃ嫌なの!」

「ふふ、兄様の好みを初めて聞いたわ。国で一番の美女ってどんな方かしら?」


 ライマーが思う国で一番の美女は、目の前で微笑んでいる彼女だ。これは、どんなことがあっても一生揺るがない一番だと思っている。

 叶わぬ夢となってしまったが、彼女が幸せならそれで満足だ。




「う~緊張するっ!それじゃフォルク様フィー、行ってきます!」


 そわそわした様子のライマーが馬車の窓を開けて大きく手を振ると、馬車は動き出した。


「いつも以上に落ち着かないやつだな」


 王宮魔導士一行を見送りながら、フォルクハルトは従者の様子に疑問を感じた。


「ふふ、ライマー兄様は初めてお祖父様とお祖母様にお会いするので、緊張しているのだと思います」

「そういえばそうだったな」


 フィリーネの父であるクラウスが実家の支援を受けながら王都の学校で学び魔導士になれたのに対し、ライマーの父でありクラウスの弟は苦労して王宮の文官となり、爵位を継げない彼は自らの手で男爵の地位を得た。

 兄弟間の教育格差を弟は憎んでおり、当てつけのように魔法の才能があったライマーを士官学校へ入れて最高位魔導士にしたのだ。


 フィリーネとの交流も父にはあまり良く思われていなかったライマーは、当然の如く祖父母には会わせてもらえずに今まで過ごしてきた。


 けれど今回は違う。仕事なので仕方ない。

「上司の命令は絶対だからぁ!」と父を諭して、堂々と家を出てきた。上司には命令されたのではなく志願したのだが、ライマーの父がそれを知るはずもなかった。


「兄様は人懐っこいので、お祖父様とお祖母様に可愛がってもらえると思いますわ」

「最高位魔導士なので、領民も安心するだろ。俺の婿入りは必要なかったと思われないか心配だ……」

「大丈夫です。フォル様の支持はしっかりと得てきましたから」


 フィリーネは推し布教の成果を思い出しながら、自信に満ちた表情をフォルクハルトに向けた。

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