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32 推しとの旅がご用意されました2

 フォルクハルトの提案で、領地への手土産を買うことになった二人。

 この街は土産品になりそうな産業が盛んであり、どの店も店内は品揃えが豊富でフィリーネはどれを選んだら良いか迷ってしまうほどだった。


 祖父へのお土産はフォルクハルトが選んだお酒類。祖母へはフィリーネが選んだ藍染の布。などなど。

 藍染は王太子妃であるエマの祖国から伝わったもので、彼女が王太子妃となったことで人気になりつつある染物だ。

 藍染はフォルクハルト色でもあるので、フィリーネも藍染は大好きである。


「ありがとうございます、フォル様。祖父と祖母も喜ぶと思います」


 祖父母の好きなものを買えて嬉しく思っていると、フォルクハルトはフィリーネを連れて最後の店へと入った。


 そこは今までの店とは雰囲気が異なり、女性が好みそうな内装の店内にはアクセサリーがずらりと並んでいた。


「新婚旅行の記念に、フィーにも何か贈り物をしたいんだ。俺では女性の好みがわからないので好きなものを選んでくれないか?」


 新婚旅行の記念と言われてしまうと断りにくい。フィリーネはありがたく選ばせてもらうことにした。


 店内を見回したフィリーネは瞬時に青く輝くアクセサリーを発見して、そちらへ向かった。例え公式グッズでなくとも、推し色には目ざとく反応してしまうのがオタクの(さが)である。


 フィリーネが見つけたのは金の繊細な細工が施されたバレッタで、中央に青い石がついている。


(お土産屋さんで宝石ってことはないわよね?ガラス工房も有名みたいなので、ガラス製かしら?)


 そう思いつつ値段を見たフィリーネは、思っていたより桁が多くて驚いた。


「そちらは湖の奥にある鉱山で産出された、ブルーサファイアでございます」

「まぁ、素敵ね」


 にこりと微笑んだ店員に、フィリーネも笑顔で返す。

 こんな高価な物は買ってもらえないと思ったフィリーネは、他の一角にも青く輝くものを見つけたのでそちらへ移動した。


「こちらも、素敵だわ」

「申し訳ございません。そちらはガラス製となっておりまして、お時間をいただけましたら宝石にお取替えも可能でございますが」


 店員のありがた迷惑な提案を受け流しつつ、確認した値段は素晴らしいもので。どうやらガラス製でも金属部分は金だったようだ。


 もっとお土産に相応しいお手頃価格のアクセサリーはないのかと辺りを再度見回して、すぐに青いものを見つけるフィリーネ。


「そちらはガラス製で金属部分も金メッキでございます。お客様には同じデザインで宝石と金で作らせていただいたお品のほうがお似合いかと存じます」

「……品揃え豊富で迷ってしまうわ」


 これは一般的にはお手頃価格であったが、貧乏令嬢だったフィリーネにとってはまだまだ高い。


 もっと安いものはないのかと悩んでいるフィリーネの後ろで、フォルクハルトは笑いをこらえていた。

 傍から見ていても、安いものを買いたいフィリーネと高いものを売りつけたい店員の構図がはっきりとしている。

 金額は気にするなとフォルクハルトが声をかけようとしたところで、フィリーネはまた店内を移動した。


「フォル様っ、私こちらが良いです」


 フィリーネに呼ばれてそちらへ向かったフォルクハルト。フィリーネが嬉しそうに見つめていたのは量り売りのビーズだった。

 機械製造ではないこの世界のビーズにしては、粒が揃っていて質の良いものだ。


「フィーらしくて、良いんじゃないか」

「ありがとうございます。どの色にしようかしら、たくさんあって迷ってしまうわ」


 青は推し色として必ず必要だが、フォルクハルトの顔を表現するならクリーム色も必要だとフィリーネが思っていると、フォルクハルトは小さく笑った。


「迷わずとも全種類買えば良いだろ」


 フォルクハルトが店員に「ここにあるビーズを全部くれ」と言ったので、フィリーネは慌てて必要量を店員に注文し始めた。


 フィリーネが店員と話している間に、フォルクハルトは護衛と荷物持ちでついてきている使用人達に視線を向け、彼女には聞こえないように指示を出したのだった。




「フォル様、ありがとうございました!こちらのビーズで新婚旅行の記念になるものを作りたいと思います」

「そうか。できあがりが楽しみだな」


 フォルクハルトの顔もビーズで作ってみたいが、フォルクハルトのためにも何か作りたい。新婚旅行の思い出となりそうなものは何が良いだろうかと考えていると、フィリーネの隣でフォルクハルトが懐中時計を確認した。


「ちょうど良い時間だな。少し早いが夕食にしようか」

「わんっ!」

「はい。移動ばかりでしたのに、お腹が空いてしまいましたね」


 ここはお土産屋さんが多く軒を連ねているが、食べ物の屋台なんかもちらほら見受けられる。


(作品中では描写がなかったけれど、フォル様も屋台を利用することがあるのね)


 意外と庶民派だったのだとフィリーネが思っていると、彼に手を引かれて向かった先は船着き場だった。

 ここに屋台は見当たらないのでフィリーネはカミルと顔を見合わせて首を傾げたが、フォルクハルトは説明をしないままフィリーネとカミルを連れて遊覧船へ乗り込んだ。


「湖の遊覧船なのでほとんど揺れないが、船酔いは大丈夫そうか?」

「はい大丈夫だと思います。実を言うと船に乗るのは初めてなもので……、フォル様と一緒で嬉しいですっ」


 急に予定が変わったようだけれど、フォルクハルトが素敵な場所へ連れて来てくれたことが嬉しい。


 すぐに動き出した船から、湖の奥にある山に夕日が沈んでいく様子を二人で楽しんだ後、ウェイターのような恰好の人物がこちらへやってきた。


「ローデンヴァルト様、お食事のご用意が整いました」

「ありがとう、案内してくれ」


 予定が変更になったのかと思ったけれど、フォルクハルトはここで食事もする予定だったようだ。

 けれどフィリーネが想像する遊覧船といえば、七海が修学旅行で乗った湖の遊覧船。


(売店に、食べる場所でもあるのかしら……?)


 そう思いながらフォルクハルトと共に二階へ案内されると、そこは湖を一望できる素敵なレストランだった。


「わぁ……、素敵だわ……」


 船は街が見える方角へと旋回しており、街の灯りが綺麗な夜景となり始めている。


「気に入ってくれたか?」

「はいっ!とても素敵で……、私にはもったいないくらいです」


 それに夕日に夢中で気がつくのが遅れたが、この遊覧船には自分達と使用人の他には船の関係者しか乗っていない。

 この遊覧船はフォルクハルトが気まぐれで乗ったのではなく、事前に貸し切り予約されたものなのは明らかだった。

 推しがここまで準備をしてくれたことに幸せを感じつつも、貧乏令嬢だったフィリーネには不釣り合いで申し訳なくなってしまった。


 恐縮している様子のフィリーネを見たフォルクハルトは、彼女を抱き寄せた。

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◆作者ページ◆

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