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03 推しとの出会いは突然に3

 寝室でメイドのアメリアによって寝間着に着替えさせられたフィリーネは、ベッドの上で医者の診察を受けた。


 フィリーネは今朝、食堂へ向かう途中で階段を踏み外して転げ落ちたようだ。

 幸いにも一階へ到着する寸前だっため、それほどひどい怪我には至らなかった。たんこぶが一つと、打ち身が数ヶ所、擦り傷も同程度。


「数日は打った箇所が痛むでしょうが、特に問題はないようですよ」

「ありがとうございます、先生」


 前世の記憶が戻ったのだから問題大有りだが、それを申告すると頭がおかしくなったと思われそうなので、フィリーネは黙っておくことにした。


 医者が部屋を退出するのを見送りながら、フィリーネは今朝の自分を思い出していた。

 階段を踏み外した理由は、寝ぼけていたわけでもぼーっとしていたわけでもない。

 フィリーネは三ヶ月前に嫁いできたこの家に、ストレスを感じていたのだ。

 使用人は皆優しくしてくれるけれど、お飾りの妻としての現状に心を痛め、次第に食欲は減り夜も眠れなくなっていた。


(理由は全く違うけれど、前世の七海と同じね……)


 前世の七海はひたすら推しを補給したいがために過労と栄養不足に陥ったが、フィリーネはフォルクハルトに受け入れてもらえないのが辛くて七海と同じ状況になってしまった。

 同じフォルクハルト相手なのに、七海は幸福を味わいフィリーネは不幸を嘆いていた。

 滑稽だとフィリーネは心の中で笑ったが、不思議と辛い気持ちは和らいでいた。


(七海は、フォルクハルト様を愛していたのね)


 先ほどのフォルクハルトの態度に対して、フィリーネなら震えるほど恐ろしく感じていただろうが、七海はむしろ彼らしい態度だと喜んでいた。

 そればかりではない。七海の記憶をたどると、彼女はフォルクハルトを応援するために絶え間ない努力をしてきたようだ。


 直接彼に会うことが叶わない七海は、それでも応援の言葉を日々SNSで呟き、同担他担――同じキャラクターを好きな者と違うキャラクターが好きな者問わず、作品について語り合い情報を共有し喜びを分かち合っていた。

 作品を長く継続させるには資金が必要なため、それを支えるためバイトに勤しみ、イベントに参加しては大量の戦利品――グッズを入手することで応援をしてきた。

 同じ絵柄をいくつも集める必要があるのかと周りに指摘されても、七海は「これが愛の深さよ!」と胸を張って答えていたようだ。


 七海の記憶が戻ったことで推しへの無償の愛というものを知ることができ、フォルクハルトを想うたびに心が暖かくなる。

 今までフィリーネは知らなかったが、彼は苦労を仲間と共に乗り越えて今の地位を築いたのだと七海の記憶で知ることができた。


 そんな彼の足手まといになるのはもう止めたい。

 私も七海のように、全力でフォルクハルト様を推してみよう。


 そう決意したフィリーネは早速今の想いを残そうと、ベッドから出て机に向かった。


 七海がいた世界では、SNSというもので気軽に同担と気持ちを共有することができ、時には推しの代弁者ともいえる声優に応援メッセージを送ることもできたようだ。

 けれどこの世界にそのような便利なものは存在しない。

 フィリーネはこの世界でのコミュニケーションツールである手紙を取り出し、フォルクハルトへ今の想いをしたためた。


「この手紙をフォルクハルト様に届けてほしいの。返事はいらないと伝えてね。それから、今日からは食事をしっかりと取ることにするわ」


 ベルを鳴らして呼んだアメリアに、手紙を渡しながらにこりと微笑んだフィリーネ。


 アメリアは、昨日までとは様子が変わったフィリーネに驚きつつも、良い兆候のような気がしてしまい心の中で喜ばずにはいられなかった。


 再びベッドへ戻りアメリアが部屋を出ていくのを見送ってから、ぽふりと寝具に身を預けた。

 まずは体調を元に戻そう。元気になったらやってみたい事は山ほどある。

 七海の記憶を思い出しながら、フィリーネは久しぶりに深い眠りへとつくのだった。

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◆作者ページ◆

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