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推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います【電子書籍化・コミカライズ】  作者: 廻り
本編

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21 推しを抱きしめたい2

『フォル様ぬい』とは、フォルクハルトをデフォルメしたぬいぐるみのことだ。

 公式から発売されるものや、クレーンゲームなどで入手できるものなど、前世の世界では様々なフォル様ぬいが存在していた。

 形も様々で、寝そべっているものやお座りしているもの、着ぐるみを着ているものや他の作品とコラボしたものなど。

 一定の規模となったジャンルではぬいぐるみは必要不可欠な存在であり、推しのぬいぐるみを子供として愛でる『ぬいママ』という層もいるほど人気グッズとなっている。


 そんな推しのぬいぐるみを、フィリーネも欲しいと思った。毎日抱きしめて、一緒に寝たい。


 前世の七海は手芸が苦手だったが、フィリーネは内職をしていたのでプロ級の腕前。

 今までは前世でしてきたことの記憶を頼りにオタ活をしてきたが、今回はフィリーネ自身の技術で推しへの愛を形にしてみようと決意するのだった。




「おはようございます、フィリーネ様!今日は手芸店へ出かけられるとか」


 護衛のハンスはフィリーネが出かけると聞いて、意気揚々と玄関の前で待機していた。


 フィリーネに片思いをしているハンスが、彼女と接触できる機会はあまりない。

 以前よりは護衛をする機会が増えたが、それでも庭でスケッチするのを見守ったり、スケッチブックを買いに行くのに同行したりする程度。

 お昼休憩時のファンサうちわゲームには積極的に参加しているが、ハンスのファンサではフィリーネの心を動かすことはできないようだ。

 どうにかしてフィリーネと親しくなりたいと思っているが、今の彼にできるのは護衛の仕事を頑張るくらい。

 職務を逸脱してまでフィリーネとの仲を深めようとは考えていない彼は、真面目な性格の青年だ。


「えぇ。ぬいぐるみを作ろうと思って」

「ぬいぐるみとは、可愛らしいご趣味ですね。クマさんでも作られるのですか?」

「いいえ、フォル様のぬいぐるみを作るのよ」

「あ……、そうですよね。ぬいぐるみといえば、フォル様ですよね……。いいなぁ……、フォル様」


 そんなことだろうと思いながら、なんとか笑みを浮かべたハンス。

 フィリーネが行動を起こす時は、いつだってフォルクハルトが関わっていることはすでに承知している。

 ぬいぐるみにするほど愛されるなんて羨ましいと思ったハンスだったが、その言葉を素直に受け取ったフィリーネは瞳を輝かせた。


「まぁ。ハンスもフォル様ぬいが欲しいのね。貴方の分も必ず作ると約束するわ」

「……え?あぁぁ!そうなんですよ、嬉しいなぁ!俺なんかのためにありがとうございますフィリーネ様!」


 恋のライバルとして勝手に位置付けているフォルクハルトのぬいぐるみをもらっても仕方ないけれど、初めてフィリーネから贈り物をもらえるようなので、ハンスはその行為についてはありがたく思うことにした。


 馬車に乗り込むフィリーネとアメリア。そして当然のように二人の後から乗り込んだカミルは、ハンスの前を通過する際に視線を彼に送った。

 それはまるで、自分が通ってきた道をハンスも同じように歩んでいる姿を、生暖かく見守るような視線だった。




 王都の中心部に入り、馬車は今回も高級店が立ち並ぶ一角へと向かった。


 店内は貴族女性が趣味としてたしなむための手芸用品が、美しく陳列されている。

 フィリーネはそれらを眺めながら奥にある生地売り場へやってきた。

 カミルはここへは来たことがないのか、フィリーネの後ろを大人しくついてきている。


 今回のフィリーネは奮発をして良い生地を買うつもりだ。フォル様を作るのだから失礼がないようにとの配慮のようだ。


「フォル様の肌色はこの辺りかしら、髪の毛はこの生地が良いわね」

「わぅん!」


 フォル様ぬいに着せる洋服は、アメリアと相談して着脱可能なものにしようと決めた。今回は王宮魔導士の制服を着せる予定だ。

 目や口などは全て刺繍で表現する予定なので刺繍糸も選んでから、最後に詰め物の売り場へとやってきた。


 ぬいぐるみ用の詰め物は綿(わた)しか売っていないのに、悩み始めたフィリーネを見てアメリアは首を捻った。


「どうかされましたか?フィリーネ様」

「綿のぬいぐるみだなんて、私には贅沢だと思ったの……。けれどフォル様の中身が藁だなんてありえないものね。おとなしく綿を買うわ」


 平民の子供が持っているぬいぐるみの詰め物は一般的に藁か木くずで、フィリーネが幼い頃に所持していたぬいぐるみもそうだった。

 けれど、この国の一般的な貴族令嬢はそんなぬいぐるみを所持したりはしない。綿が普通であり生地が良いのも当たり前。本物の毛皮を使ったり、瞳に宝石を使っているものもあるほど。

 貴族の家に置くぬいぐるみとしてはごく普通の材料だけれど、貧乏性であるフィリーネにとってはとてつもなく贅沢なぬいぐるみとなるようだ。




 屋敷に戻ったフィリーネは早速、ぬいぐるみ制作に取りかかった。

 せっかく良い材料を購入したので失敗は許されない。しっかりと型紙を作成するところから始めた。

 体の部分は、以前に内職で作ったことがあるクマのぬいぐるみを参考に。顔の部分は前世の記憶を頼ることにした。


 ぬいぐるみ作りは時間がかかる。フィリーネはそれから毎日少しずつぬいぐるみ制作を進めていった。

 夜会やファンサ時のフォル様を絵にする約束もしているので、一日の半分を絵に、もう半分をぬいぐるみ制作に費やした。

 オタ活はいくら時間があっても足りないわと思いながら。




 フィリーネがオタ活で充実した日々を送っていた頃、フォルクハルトはモヤモヤした気分で日々を過ごしていた。


「本日の報告は以上でございます」


 いつものように仕事が終わって屋敷へ戻り、書斎で執事長から一日の報告を受けたフォルクハルトは、じっと執事長を見つめた。


「……それだけか?」

「はい、以上でございます」

「…………」


 執事長を下がらせたフォルクハルトは、眉間にシワを寄せながら考え込んだ。


 彼がモヤモヤした気分でいる原因は、フィリーネだった。

 夜会があった日以来、なぜか彼女からの手紙がこなくなったのだ。

 それまでは毎日欠かさずにフォルクハルトの元へ届けられていた手紙。夜会の日はフィリーネも忙しくて書く暇がなかったかもしれないが、日常に戻った後も手紙が来ないとはどういうことなのか。

 フォルクハルトはそれが気になって仕方なかったが、同時にあの手紙をこんなにも心待ちにしていた自分に気づかされて複雑な気分を味わっていた。

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