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「なんてひどい計画なの!」


 フォルクハルトとフィリーネの結婚について事情を聴いたエマは、この結婚に関わった誰よりも怒りを露わにした。


 この作品のヒロインであるエマは、父がこの国の貴族で母が東の国出身。父の仕事の関係で、東の国で幼少期を過ごしている。

 母によく似たダークブラウンの髪と瞳を持つ彼女は、容姿だけではなく物事の考え方もこの国の人間とは異なっており、男女平等な国で育った彼女はこの国の男尊女卑文化にはいつも嫌悪感を抱いていた。


 少しでも女性が活躍する場を切り開こうと決意し、女性で初めて士官学校へ入学するというのがヒロイン自身のストーリーだ。

 学校でただ一人の女子という環境のため注目の的となった彼女は校内でイケメン達と次々に出会うが、自分の夢にまっしぐらだった彼女は卒業までイケメン達の傍観者を貫いた。

 ただ、卒業後にアルベルトが猛アタックを仕掛け、今は王太子妃となっている。


『君の夢を叶えるためには、士官じゃ足りないよ。僕と結婚して、いずれ女性のトップという立場から一緒に夢を叶えよう?』


 彼女にとってはこれ以上ない、プロポーズの言葉だったとか。


 そんなエマが、フィリーネの現状に怒るのはもっともな話で、フォルクハルトとライマーも予想はしていた。


「フォルク様も上司の命令を無視できず、辛い立場だったんですっ!」

「それはわかるけれど、事前にじゅうぶんな話し合いを持たなかったフォルクにも責任があるわ!大体、貴方はいつも言葉が足りないのよ!良かれと思って取った行動についての説明がなくて、周りに誤解されるのは昔と変わらないわ!今回は今までで一番最悪な結果よ!」

「……すまん」


 エマの発言は正論すぎて、フォルクハルトは返す言葉が見当たらない。

 それと同時に、昔は言葉足らずな自分を、エマがさりげなく助けてくれていたことを思い出してみたりもした。

 いつもさり気ない優しさを向けてくれるエマに対して、淡い感情を動かされたこともあったフォルクハルト。

 けれどそれは学生時代だけのことで、アルベルトと婚約すると聞いた時は素直に喜べたし、この国では珍しく夫を尻に敷くような性格の女性と釣り合うのはアルベルトくらいなものだと思っていた。


「謝るべき相手は私ではなくて、彼女だわ!それにライマー、貴方も大切な子がこんな目に遭ってよく平気でいられるわね!彼女を愛しているのなら、正々堂々と告白するべきよ!」

「それができる環境なら、とっくにしていますよぉ~!」


 ライマーもまた、一つ年上であるエマに対して淡い憧れを持っていた時期があったが、フィリーネの成長と共に興味はそちらに移ってしまった。


「まぁまぁ、元はと言えば僕の祖父がわがままを言ったせいなんだから、あまり叱らないであげてよエマ。二人も、祖父が迷惑をかけてしまってすまなかったね」


 アルベルトが場を治めるようにフォルクハルトとライマーに謝る。

 彼は王子でありながら昔から誠実で低姿勢。加えて金髪に青空のような瞳をもつ甘い顔立ちの彼は、この作品では一番人気のイケメンだ。


 その彼の次に人気があったのが、公爵家の跡取りであるレオナルト。

 アルベルトの従兄弟である彼はアルベルトと見た目が似ているが、彼のほうは遊び人というイメージが強い。

 実際に学生時代はかなりの遊び人で、士官学校では女性教員に手を出したり外部の女性を校内に連れ込んだりと問題児だったが、エマと知り合ったことで少しだけ落ち着いた性格となり、今はアルベルトの側近として多少役立っている。

 そんなレオナルトは、この場にいる五人目の人物だ。


「フィリーネちゃんかぁ。いっそのこと俺がもらってやろうか?」


 そう言ってからのんきにワイングラスを傾けた彼に、一斉に鋭い視線が向けられる。


「今は俺の妻だ。フィリーネに手を出したら命はないものと思え」

「おっ俺の従兄妹にまで、手を出さないでくださいよぉ~!」

「貴方のおもちゃにされるくらいなら、フォルクの家で冷遇されていた方がマシだと思うわ」

「僕が君をかばうのにも限度があるってことを忘れないでほしいな」

「冗談だよ。皆して真に受けないでくれ」


 冗談で済まないのが彼であり、それをじゅうぶんに理解しているのが残りの四人だ。

 レオナルトを排除しておくべきだったとフォルクハルトが思っていると、アルベルトが話を戻した。


「それで、これからどうするつもりなんだい?まさかこのままの状態で一年を過ごすつもりじゃないよね?」

「そもそも彼女はライマーとの結婚を望んでいるのかしら?この国では普通のことかもしれないけれど、女性の意思を尊重しない結婚なんて私は反対よ!」


 アルベルトは低姿勢ながらも言葉に含みを持たせるのが上手く、エマは直球勝負。

 王太子夫婦に揃って問題を解決しろと圧力をかけられてしまったからには、どうにかせねばならない。

 フォルクハルトとライマーは顔を見合わせた。


 フォルクハルトとしては従者であるライマーには幸せになってもらいたいが、フィリーネの意思を尊重するとなると話はややこしくなる。

 フィリーネがフォルクハルトに向けている興味がどのようなものなのか。先ほど馬車で混乱したばかりの彼にわかるはずもなかった。





 すでにダンスが始まっている夜会会場へと戻った五人だったが、ライマーが真っ先にフィリーネを見つけた。


「フォルク様、フィーが困っているみたいですよ?助けてあげてください!」


 ライマーが指し示す先にいたフィリーネは、大勢の男性に囲まれていた。


 貧乏だったフィリーネは貴族令嬢らしからぬ生活を送っていたために、社交場へ出たことはほとんどない。

 それゆえに彼女の存在を知らない者が大多数を占めるこの場において、フィリーネという存在は独身男性が是が非でもダンスを申し込んでお近づきになりたい相手として映っていた。


「ライマー、助けてこい」

「え~!?従兄妹の俺が行ってもあの場は収まらないですよ!フォルク様じゃなければ、フィーを助けられません!」


 頬を膨らませるライマーに対してフォルクハルトが眉間にシワを寄せて渋っていると、王太子夫婦もフィリーネを助けろと彼をたたみかけた。

 そしてレオナルトが「俺がダンスを申し込んでこようか?」と提案したところで、やっとフォルクハルトは動いた。




 フィリーネは、大勢の男性に囲まれて困っていた。

 こんな経験は生まれて初めてなので、どう対処したら良いのかわからなかったのだ。

 フォルクハルトの妻だと名乗ってみたけれど、あの氷の魔導士が結婚するはずが無いと誰も信じてくれなかった。


(私はダンスを踊りたいのではなく、フォル様のダンスを見にきたのだけれど……)


 自分がダンスを踊っていては、推しのダンスを拝めない。

 屋敷に帰ったらいろいろなフォル様を描きたいしメイド達にもおすそ分けすると約束をしているのに、構図の種類が減ると皆もがっかりしてしまう。

 フィリーネは非常に困っていた。


 しかし、フィリーネにダンスを申し込もうと殺到していた男性達は、一瞬にしてフィリーネの前から消え去った。

 正確に言うと、フィリーネの前に誰かが立ちふさがったので、フィリーネの視界はその人の背中でいっぱいになったのだ。


「俺の妻に何か用か?」


 フィリーネからは見えていないが、熱に浮かされていた彼らはフォルクハルトの凍てつく視線によって、一瞬にして極寒の地へと投げ込まれたかのような気分を味わった。


 そんな姿を残念ながら見られなかったフィリーネだったが、思わぬ推しの登場に胸が高鳴る。


(これは、俺のダンスをしっかりと見ていろということなのかしら……。なんて素晴しい演出なの!)


 すぐに辺りから人の気配が消えると、ライマーがひょこっとフィリーネの横に顔を出した。


「フィー大丈夫だった?一人にしちゃってごめんね。怖かったでしょ?」

「大丈夫よライマー兄様」


 フィリーネがにこりと微笑んでいると、フォルクハルトがライマーに視線を向けた。


「ライマー、彼女についていてくれ」

「えっ、フォルク様は?」

「俺は、仕事だ」


 フォルクハルトが指し示した方向には、彼らの上司がおり手招きをしている。その隣には年頃の令嬢が頬を染めてフォルクハルトを見つめていた。


(きっと、あの子とダンスを踊るのね)


 彼がそのまま立ち去ろうとしたので、フィリーネは慌てて声をかけた。


「フォルクハルト様、ありがとうございました。ダンス、楽しみにしています」


 輝いた瞳を向けるフィリーネに対して、フォルクハルトは眉間にシワを寄せてからその場を立ち去った。

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