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とある少女の絶望と

だが、その変化は翌日起こった。

……シャーロットが顔を真っ青にさせたまま、ずっと黙りこくっているのだ。


「……どうしたのさ」


「い……いいえ、なんでも、ないんです」


沈黙の理由は、わからない。

ただ静かにその目を見れば、何かを失ってしまったような雰囲気があるのが見て取れた。


「ねえ、シャーロット。Lv0スキルでも失ったのかい?」


「……はい」


「……それについては、私から。実を言うなれば、懸念しておりましたからな。Lv0スキルは劣等感の結晶、それ故に『大した努力もせずに身につけたLv0スキル』は少しばかり……吹っ切れてしまうのですよ。やるならば、あなたのできないことを。いかがですかな?」


シャーロットのできないこと。

それを探すため、僕らは今日だけ仕事を休むことにした。



「さっきの子、いい子でしょう。修行してやってくれませんかね」


「……あのねぇ」


最初に向かったのは、拳法家の道場。

中を見れば、そこの中にいた男女五十名近くが全員地面に突っ伏していた。

立っているのは、シャーロット一人である。


「……師範代は全員ね、軽く技だけ見せて帰ってもらおうなんて考えた結果、突然強くなったあの子に倒されちゃったよ。なんなんだい、あの子は」


「……才能有り(だめ)かぁ。普段逃げてばっかだし才能無し(いい)と思ったんだけどなあ」


結局、護身系の武術程度なら『なんでもあり』で道場破りをしてもダメだった。

僕らは不満そうな彼女の手を引き、そのまま次の場所へと向かう。



「あ、すみません。合唱隊体験会って」


「やめるそうですよ。先生、さっき初めて『歌』の概念を知った子に圧倒された挙句、たて琴もヴァイオリンもギターもことごとく完全コピーどころが、改良コピーされたって」


ダメだ。どうやら、彼女は自覚がないだけで天才らしい。

そういえば適正のなかったものが『盗み聞きのスキル』と『人殺しのスキル』であったため、そもそもできないことなんてそっち方面だけなのかもしれない。

……そして、そっち方面に対して彼女は執着しずらい傾向にあるため、なかなかこれも難しそうだ。


「……次がありますからな、次こそは彼女の欠点を見つけなければ」



「魔法って、そんな簡単じゃないはずなんだけどなぁ……?」


先ほどまで極端ではなくとも、彼女は一発で黒魔法と呪術、防御魔法、白魔法に至ってはその上の段階である『神託系スキル』まで発現させていた。

……聖女適正すら感じられてくる、謎のチートっぷり。

彼女に欠点などステータスしかなかったのかもしれない。


「……くっ、まだです!それなら、ユワレさんの十八番で……!敗北します!」


結果として、一日中道場荒らしをし続けた彼女のステータスはこんな風に変化した。


[シャーロット]

職業:逃走者


体力:B

筋力:C

頑丈:B

敏捷:C

魔力:C

精神:D

幸運:E


スキル:[短剣術:Lv1][逃走術:Lv4][隠密:Lv10][ブレス:Lv2][幻惑魔法:Lv4][拳闘:Lv7][柔術:Lv21][回避:Lv15][歌唱:Lv43][万物演奏:Lv47][白魔法:Lv50][黒魔法:Lv5][呪術:Lv1][防御魔法:Lv11][裁縫:Lv7][料理:Lv4][庭師:Lv6]


固有スキル:[神託の聖女]


結論から言おう。

彼女は、弱者側の適性は……無かった。

所詮立場だけの弱者だったのかもしれない。

たまにいる『まだやり直せる』という奴だ。


「……さて、どうする?」


「でも。……それでも!私、ユワレさんが、ユワレさんが。守って、ねえ……私、弱いんですよ、私。ねえ、私は弱いのに、なんで、そんな目で……!」


突然頭を掻きむしり、慌てだした彼女。

ひとまず止めようとすると、そのまま手を払い除けてどこかへと行ってしまった。

一体何がそんなに悲しかったのか。

そう思っていた矢先に、どこかから悲鳴が聞こえた。



倒れ臥す少女と、それを囲む大男たち。

その構図は、どこかで見た覚えのあるものだった。


「チッ……やっと見つかったか、クソ女……!」


「……ッ!」


踵を返そうとするも、後ろにも男達は迫っている。

手にはいずれも、剣やナイフ、斧や鉄拳まで武器の数々。

絶望的としか言いようのない状況だ。


「へっ……多少スキルが増えようがなぁ、多勢に無勢って知ってるかあ?」


「さて。ふんじばってとっとと……!」


動かれる寸前。

彼女のナイフが、近くにいた一人の心臓へと無遠慮に突き立てられた。


「……テメエ、兄貴に何を!」


「……『スモーク』!」


全員の動揺を誘いつつ、使用したのは『スモーク』。

恐らくこれでしばらく止まってくれるだろう。


──続けて使うスキルも、思いついた。


「すぅ………(キャ)ッッッ!」


『歌唱』スキルによる高音と、『ブレス』による音響攻撃。

声帯から伝わる振動によって打ち消しあうことができる自分と違い、周囲の彼らは全てモロに食らっている。

次第に数十人単位で倒れる音が聞こえた。


「ぐ……ぐぅ……!」


「……!」


聞こえたうめき声。

すかさず背後から全力で踏みつけることで抵抗されるリスクを潰しつつ、そのまま近くから聞こえた声に応じてナイフを突き立てる。

何度も、何度も……肉を引き裂く感触がした。


「……ぁ」


少しだけ、辛い気がしたが気にせずナイフを突き刺し続ける。

動いた影を見つけては刺し、見つけては刺し。


──そういえば、追われてるのは母親が借金作って逃げて、父親がその後早死にしたからなんだと、思い出した。


「……私、決めたよ。もう逃げない、もう迷わない、もう許さない……!」


自分は恵まれない境遇に生まれた。

自分はひどい目にあってきた。

目の前のチンピラ達にはわかるまい。


カビまみれのパンくずの味も、母親に飲まされた熱湯の味も、暴漢に殴られて舐めた砂利の味も。

借金取りの靴の味くらいは知っていて欲しいけれど、きっとそれすら知らないのだろう。


「──だって、私は悪くないから」


目の前のチンピラの首を関節技でへし曲げると、そのまま全員の財布を漁り、ポケットに仕舞い込む。

私はどうやら、誤解していたらしい。

Lv0なんて無くたって、私は誰よりも弱者だ。

ステータスが少し上でも、やはり最弱だ。

だからこそ、何をしても許されるのだから。


[シャーロット]

職業:逃走者


体力:B

筋力:C

頑丈:B

敏捷:C

魔力:C

精神:D

幸運:E


スキル:[短剣術:Lv11][逃走術:Lv4][隠密:Lv10][ブレス:Lv2][幻惑魔法:Lv4][拳闘:Lv7][柔術:Lv21][回避:Lv15][歌唱:Lv43][万物演奏:Lv47][白魔法:Lv50][黒魔法:Lv5][呪術:Lv1][防御魔法:Lv11][裁縫:Lv7][料理:Lv4][庭師:Lv6][殺人技術:Lv3][慈悲:Lv0]


固有スキル:[神託の聖女][壊れた天才]


固有スキルが一つ増え、Lv0のスキルも一つ手に入った。

ならば再び、あそこに戻るとしよう。


──今の私なら、きっと許してくれるから。


「殺すのって、簡単なんだね」

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