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味方

着いた頃には、既に夜になっていた。

それでも丸一日やっているはずなので、勢いよくギルドのドアを開ける。


「負傷者の手当を!ゴブリンの巣窟で発見されました!錯乱状態にあるので武器は没収してあります!」


「何⁉︎急いで渡せ!」


見ずとも、古傷がほぼ全て開かれてズタボロなのはよくわかる。

わざと慌てながら渡すと、後ろにいたシャーロットはクスクスと笑っていた。


「うふふ、すごく悪いことですね。ちょっと前まで、自分がされる側だったのに。それも貴族相手に……!」


「ま、もっと酷く引き裂いておけば良かったかもね」


見れば、何事も無かったかのように討伐証拠の換金は終わっていた。

すっかりゴブリンの鼻は無くなっている。


「……受付さん、あっちはいいの?」


「業務に含まれません」


「……そっかぁ!」


いつも勇者が口説くのを兼ねて話していたため知らなかったが、どうやら脈なしらしい。

とりあえずは落ち着いて何か頼もうか、と考えて、一旦見合わせた上で僕らはいつもの黒パンにひよこ豆のスープを合わせて注文した。

先程の一件のせいで殆どの人員がいなくなってしまっており、それ故にこちらに料理を持ってきたのはやる気のなさそうな獣人の青年である。


「……あー、おまたしゃしたー、『ヒォコメのスープ』とぉ、『リィムギパン』にありまぁす」


「……え、なんと?」


「……ごっくりぃ」


滑舌という『欠点』なのだろうか。それとも、過剰なほどやる気がないのだろうか。

彼は返事もせずに奥へと引っ込んで行ってしまった。


「……そうそう、君は貴族は嫌いじゃないの?」


「たしかに重罪で家族を失ったこともありますし、貴族はみんな嫌いですけど……それだけの理由で殺しちゃダメじゃないですか?」


たしかに、それは真っ当な意見だ。

だけれど僕らはどうせ真っ当ではないので、つまりその意見は間違いという事になる。

僕はその手を掴み、大きく微笑んだ。


「ダメなもんか!誰かが、社会が、国家が、人間が、世界の全てが君を許さなくたって!僕は、僕だけは君の全てを許す!」


間違おう。シャーロットは僕と一緒に間違った道を最後まで歩き、より多くの人間の足を引っ張るために生まれてきたんだから。

僕が彼女の手を握っていると、彼女はその顔を真っ赤に染めて目を逸らした後、嬉しそうに微笑んだ。


「はい……はい、はいっ!ああ……そんなこと言ってくれたの、ユワレさんだけです!どうせユワレさんしか生きることを許してくれないんですから、私はユワレさんのせいでたくさんの命を犠牲にする事にします!」


「ああ、いい責任転嫁だ。素質あるよ」


偉そうな人間は、とりあえず殺す。

だからあいつも起き上がってきたら殺す。

二人の中にそれとなく密約が生まれる。


「……ちょっと、よろしいでしょうか?」


隣に立っていたのは、長いうねりのある金髪が特徴的な長身の女性。

腰には家族の証である家紋の彫られた剣を提げており、少し勝気そうに扇で口元を押さえていた。

例の人である。殺す。


「……シャーロット」


「はいっ!」


「むぐぅ⁉︎」


シャーロットは机の上に置いてあったナプキンを突然女性の口に詰めると、それを反射的に取り出そうと口に手を当てた瞬間に合わせてその太腿にナイフを突き立てた。

それに合わせて僕も手を伸ばし、静かにその傷に触れる。


「……では、すぐに《回復》させます!」


「む、むぐぐ!むーっ!」


「早急にしましょう、『リカバリー』ッ!」


何かを察したらしいが、もう遅い。

その女性は全身から血を流して倒れ込んでしまった。


「……いこっか、シャーロット」


「はい。その前に、死体を持ち帰ってみたいのですが」


「宿、ペット連れ込みNGだってさ。死体もダメじゃない?」


僕らが相変わらず無反応で本を読んでいる受付嬢に一抹の恐怖を覚えつつもギルドを出ようとした、その時だった。


「──お待ちを、猿轡を誤飲しかけて」


「チッ、(ころ)し損ねちゃった」


後ろから聞こえた声。

どうやらさっきの女性を殺さなかったらしい。

思わず舌打ちをすると、その女性は突然こちらに向けて薔薇の花を突き出してきた。

なんだ、と思っていると、そのまま貴族の女は続ける。


「ユワレ殿。……妹さんを、私に下さい!」


僕は彼女の背中を大量のまち針で滅多刺しにし、そのままギルドを後にし、宿でシャーロットと共に熟睡した。



「……おはようございます、ユワレ殿。昨日の洞窟での目潰しの鮮やかさもそうでしたが、何よりあなたのような明らかに蛇足な人間と足を引っ張りあって生きていく様子が何より美しく」


どうして僕は、朝イチで人の下顎を串で上顎に接着しないといけないのだろうか。

昨日の家族が何故か、無傷の状態で……この部屋に入ってきているのだ。

彼女はまたしても笑顔で串を引き抜き、こめかみから突き刺すことで頭を貫通させながら微笑んだ。


「改めて名乗ります。ネール家出禁のラスティー・ネールと申します。実を言うとLv0のスキルを持っていたのと王族との婚姻を破棄したせいで最近追放されました、是非とも妹さんをお嫁に迎え入れたく……」


思わず話を遮り、彼女の胸ぐらを掴む。

……今、なんと言った?


「ネール家出禁の理由、もう一度言ってくれないかな」


「……王族との婚姻を破棄しました。はい、私は実を言いますと男の人が嫌いで」


そこじゃない、が……彼女はそこを話すつもりらしい。

となると長くなることは必至なので、この話は中断した方が良さそうだ。

僕は彼女の唇に飛び膝蹴りを浴びせると、そのまま耳元を包丁で切り落とす。


「そっちじゃない!」


「……Lv0のスキルを持って」


僕は歓喜のあまり、裁ち鋏で彼女の顔面の皮を両断した。

……Lv0のスキルを持っている恥知らずは、僕だけでは無かったのだ。


「何?何々何がLv0スキルなの?」


「……『ステータスオープン』した方が早そうですな」


[ラスティー]

職業:貴族、暗殺者、暴君


体力:C

筋力:C

頑丈:E

敏捷:A

魔力:B

精神:error

幸運:D


スキル:[料理:Lv3][裁縫:Lv1][剣術:Lv10][白魔法:Lv2][指導:Lv1][暗器:Lv22][投擲:Lv31][殺戮衝動:Lv3][処刑人:Lv1][地獄耳:Lv1][かばう:Lv0]


……かばう、Lv0。

一体どんなものかと首を傾げる俺に、彼女は微笑んだ。


「この『かばう:Lv0』はダメージをランダムに(・・・・・)どこかに押し付ける異能にございますな。性分私は臆病なものでしたが、それでも領民を守ろうとしたところ、無理だったようでこのようなスキルを発現させてしまいました。普段は他の貴族に打ち込んでおりますな」


素晴らしい異能だ。

何が素晴らしいって、才能のなさが明君の志を持つ彼女をただのありふれた暴君にしている点が素晴らしい。

是非ともそばに置いておきたくなってしまった。


「うん、いいね。パーティ組まない?」


「おお、ぜひに!……ところで、Lv0スキルをお持ちで?」


「【ステータス、オープン】!……って事でね」


[ユワレ]

職業:庭師、付与術師


体力:C

筋力:E

頑丈:C

敏捷:A

魔力:error

精神:error

幸運:E


スキル:[庭師:Lv21][裁縫:Lv16][料理:Lv33][付与魔法:Lv0][白魔法:Lv0][柔術:Lv0][呪術:Lv0][防御魔法:Lv0][スキル改造:Lv0][スキル保存:Lv0][威圧感:Lv0]


「……な、なんと……!男性に負けぬよう努力してきましたが、まさか私が無才さと家事の分野に置いて遅れをとるとは……!」


「僕だって得意分野なんだぜ、どっちも」


感激して微笑む彼女に、僕はそっと手を差し出した。

……彼女はきっと、シャーロットとも仲良くなれるだろう。


「どうかな。足引っ張ってあげるけど、ここまで落ちてみる気はない?」


「是非に!……しかし私に引き上げられないよう、くれぐれも御用心を」


力強く握手をする。

世界一理解不能な友情が、たしかに誕生した。

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