ワン・フォー・ワン
Lv0の才能の数々。
きっと人は、それを無謀な挑戦の証として見るのだろうし、持っている者は恥ずかしい奴、なのだと思う。
後ろの彼女にギルド登録をさせてから、僕はふと頭に血が上りそうな感覚に陥った。
やはり、僕はどこに出しても恥ずかしい奴だ。
来ない方が良かったかもしれない。
「終わりました、レアなジョブみたいで……」
「良かったじゃないの。うん、何かやりたいクエストはある?」
笑顔で誤魔化しつつ、手を振る。
候補として彼女が挙げたのは、多種多様なクエストだった。
「薬草採取系は得意分野だね。……でも、戦闘系が多い訳だしそっちが良いかな」
「……『ゴブリン討伐』なんかはいいかもしれません」
ゴブリンは弱い。
だが、それ以上に僕の腕力は弱い。
つまり僕にとっては1匹1匹が強力な魔物となるゴブリン討伐も候補だ。
何せ、弱い奴が強い奴を殺しても何も悪くないから、罪悪感なく戦えるのである。
「ゴブリンか。うん、良いかもね」
「早速準備してきます……!」
5分後、僕らは互いに最高の装備を整えた。
彼女は普段着に、短剣一本。
僕は裁縫道具と包丁、革製のローブ。
僕たちはゴブリンのいる洞窟へと潜って行った。
◆
「グギギギ、ギャ」
狭い洞窟内。
響き渡る声は、間違いなくゴブリンのもの。
そして、その先にいる冒険者のパーティは間違いなく、じきに部位ごとに解体されて餌となる運命だと、そう察している。
「……っ!やめなさい、殺すなら、私からにしなさい……!」
「よせ、だめだ……!」
こん棒を振り上げるゴブリンを前に、両手に怪我を負った戦士はどうすることも出来ず、パーティの女神官はもはや思考を放棄したまま虚ろな目で……なにも考えないまま女剣士の死を見届けようとして。
──少なくとも、目の前に現れた二人組の男女によってゴブリンが一気に出血させられることなど、神に祈ることもなかったのではないか。
「──強い奴はいくら殺しても楽しいね」
「少しだけ……わかるかもしれません」
ゴブリンの死体を叩きつけ、踏み躙り、盾や武器にしては使い捨てて戦う男女。
明らかに動作は素人であり、ステータスも見ただけで低いとわかる。
……なのに、どうだろうか。
二人は、ゴブリンを圧倒しているのだ。
一方の冒険者たちは、ついさっき……本来なら余裕で勝てるはずの弱いゴブリンの手で、不意打ちによって滅茶苦茶に嬲られたのだ。
「……そうかよ、弱さが理解できているから!」
「どうりで、勝てるわけだわ……!」
二人は、滅茶苦茶に暴れていた。
ゴブリンの背後に周り、混乱して武器を振り回す彼らを踏みつけ、突き刺し、あっという間に瓦解させてゆく。
その姿に思わず自分たちを重ねて吐きそうになっていると、彼らはあっという間に地面に散らばった死体の山からゴブリンの鼻を切り取り、袋へと詰めて行った。
その様子を見ていた女神官がようやく事態が解決した事に気づき、ようやく布の切断された猿轡を吐き出しながら静かに彼らを見上げる。
「……っ、あの」
「あげないよ」
「いえ。ありがとう、ございました……」
何も聞けない。
目の前の男達は、あまりにも悍ましすぎて。
冒険者たちはただ、怯えることしかできずにいた。
◆
ギルドにゴブリン討伐の証拠品を一袋分出すと、僕らはそのまま席についた。
どうやら、彼女の優秀さもあってか僕が相方でもなんとかなるらしい。
「んじゃ、君が見限るくらいまでよろしく、シャーロットちゃん!」
「……私、危害を加えられるまではお供しますよ、ユワレさん!」
互いに不信気味なセリフを吐いた後に僕らは適当に黒パンと豆のスープ、という簡素な食事を済ませ、安めの宿で床に付いたのだった。