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悲しいけどこれって、3文芝居なのよね

作者: ふちぶち

ゆるふわ設定ですが、お許しください。


この国には、2か月に一回、王城に努める公国従者を集め、国王がもてなす、お昼会がある。


城に努めるものならば、参加は自由。また、食費は取らないという夢のような舞台だ。


当然、料理に情熱を燃やすものや、売り込みに必死な従者もいる。この日ばかりは、従者とは自由、しっかり羽目を外すものだ。


そう、前回まではそうだった。


「大臣、あなたが、城下の民を苦しめていると、告発があり、調べていました!!」


剥げ上がった頭の大臣を、ガキが生意気に告発している。大臣も、付け髭と鬘をぴくぴくさせながら、ガキの話を聞いている。


国王は、『え?来たの?二時間待てって言ったよね』という表情を崩していない。もう少し、気が付けれないような表情をお願いいたしますと思ったが、それは無理だと思った。


うん、聞いていないよね、今日この場所に。


「大臣!!お前の罪を数えろ!!」


勇者が来ることなんて。


というか、そんなことより、おなかがすいたよ



「大臣!!お前の罪を数えろ!!」


勇者は取り巻きとともに、ビシッと大臣を指さす。一瞬何を小僧がと表情を浮かべかけた大臣を国王と王妃が表情だけで止める。


うん、この勇者常連だもん、この間は3か月前に来たな。情報ではそのあと小魔王で敗れたらしいけど。


最初こそきちんとレベリングを行い魔王に敵対する行動を行っていたが、最近はやる気がないのか、やってないな・・・と、後輩から聞いた。


魔王の間でも、勇者のことをすごく褒めていて、罰ゲームとか、弱くてニューゲームとか、死にゲー拗らせいうやつもいる。そりゃ、最初の何戦かで、あまりに損害が出たから、軍隊は撤退し、付近の村にも勇者に接触するなと通達を出し、張りぼての魔王城を国境から1日の村に作って、職業魔王の皆さんで連戦するだけにした、


という、回転率を重視した、レベリングも何もない環境になってる。


勘違いしないでほしいのだが、そうなってから、勇者は10年間同じことを繰り返している。最初のころはまだ人の希望だとか魔属にとっての脅威だとか、感情も議論もあったものの、すでに23歳、もう、そろそろ、現実に気が付いて引退しほしい、が、魔属領を含む周辺国の共通見解になってる。


まあ、あまり成長しないように、魔王に負けたら、レベルダウンを施して、少し記憶を消してから、生まれ故郷の王城までキックするんだけどね。


『まあ無理だよね、わたしならさっさと折れて引退する。というかおなかすいた』


まだ、勇者の大臣を貶める発言が続いている。


「お前が城下に課した、財産税で、皆が泣いている!!」


「いや、財産税は、国の発展のために必要な税でして、勇者様は、我らの国は貧しくあれと言いたいのでしょうか?」


ぐっ、と勇者の顔がゆがむ。おお、いいぞ大臣、さっさと論破して、私たちの昼飯を確保してくれ。


「いや、だが、働いている者から税を取るなど!!」


「富めるものから税を取り、足りないものを作ったり、貧しきものへ施しを行い、救貧を行うものです。」


「それなら、貴族たちからとればいいだろう!!あれだけ遊んでいるのだから」


その声に、大臣の顔がぐっと引き締まる。


「遊んでいると申しましたか?貴族が遊んでいると?この新興国家に遊んでいる貴族などいません!!」


この国家はできてまだ、10年ほどしかたっていない、王国と魔属領の間隙に流浪の民たちが必死で築き上げた国家がこの公国だ。実際、1つしかない大広間も、宿屋の宴会場より広いくらいの広さしかなく、王城の従者も全員で50人くらいしかいない。貴族なんて、国王の知り合いが4人くらいしかいない。


ちなみに、大臣はその4人のうちの一人だったりする。


全人口も5万人程度、まだできたばかりの国と言ったところだ。


「この中で、どう遊べと?どう贅を凝らすと?何度もやり直している方は違いますな!!」


「なにお・・・貴様!!!」


勇者にもやり直している自覚自体はある。だから、同じ道をたどり、同じ場所に向かってしまうのだ。まだ口論は続いていたので、不敬ではあるが、国王陛下の顔をチラ見する。『はよ終わらんかな』という表情がありありと浮かんでいた。何度も同じ光景を見せられている人は苦悩が多いなと少し同情する。


「だが、今日は違う!!」


おお、はよ終われ。私は昼飯が食べたいんじゃ、シェフのおすすめランチが待っているんじゃ。


「これは、法国で作られた、正体を暴くための道具、『真実の光』だ」


勇者が、懐から、小さな筒状のものを取り出す。見覚えのある、使った遊具だった。幼いころに、人間変身魔法を覚えたて子供たちで集まって、あの遊具を使って、魔王ごっこして遊んだなとふと、懐かしさがこみあげてくる。


「行くぞ、大臣!今日こそお前の正体を暴いてやる!!ジュワ!!!」


そうそう、あんなふうな掛け声で、頭の上に掲げると、光がでて、人間変身魔法を強制解除させるんだよね。普通人間変身の魔法なんて、きちんと強化する魔族いないから、あっさりと解除されちゃうんだよね。まあ、言ってる私も強化していないんだけど。


光が大臣を包み込む。そして、


「まぶし!!」


しかし何も起こらなかった。


「く、俺の力が足りないというのか!!なんて強力な力なんだ、このままでは、真実の光が持たない!!」


いえ、あなたの力ではなく、その遊具の効果です確か最大使用時間は30秒くらいだったと思います。王様も、『前回と展開変わったけど、はよ終われ』と、表情にありありと出ています。王妃様あくびを噛み殺すのはやめてください、端正な顔が台無しです。


あと、大臣、さっきからこっちをちらちら見るのはやめてください。確かに私はこの城に勤める唯一の魔族で職業:中魔王ですが、今は、休暇中でこの王城の従者しているんです。今の中魔王より強いのは自覚していますが、平穏な人生を過ごしたいのです、だから、こっち見るな。


あれ、大臣?鼻のあたりがむずむずしているようですね。ああ、人間って、まぶしい光に当たると、くしゃみをすることがあるみたいですね。これで一件落着でしょうか?くしゃみ落ちってなかなか秀逸です。


「ぶぇくしょん!!!」


そうこんな風に、あれ?まぶしい?大臣さん、頭の手入れしすぎです。今日、頭皮マッサージもしてましたね、しわのない頭が、鏡のようになって、遊具の光が・・・私を・・・照らして・・・あっ。


両手を見ると、黒い甲冑から黒い煙があふれている。さっきまでの細腕はなく、窓で自分の姿を見ると、完全に人間変身解除しています。黒い全身鎧から黒煙が上がっています。


そっと、国王を見ると、少し驚かれていたようでしたが、『ばれないうちに、こっそりと出ていけ・・・もうすぐ終わるから』と、目で訴えてきます。王妃様は、肩を震わせて、扇で口元を覆っています、たぶんさっきの場面がツボだったんでしょうね。


従者の皆さんも少し哀れんだような眼をしてくれて、そっと、道を開けてくれています。


うん、動く全身鎧がいきなり現れたのに何とも思われないのも、ありがたかったり、悲しかったりするかな。


そっと、勇者を視界に入れたまま、抜き足差し足で、ゆっくりと扉の方へ向かっていきます。全身鎧が常にガチャガチャと音を立てるわけではないです。これは、私の本体なのですから。


従者たちの中央まで進んだところで、そっと扉を向くと騎士たちが、頷き、ゆっくりと扉を開けようとする。


開いた扉の隙間から、かぐわしい肉の焼けるにおい、香草の香り、香辛料の匂いが鼻をくすぐる。すごい暴力的な、圧倒的暴力的な匂い、一気に心を原初に戻してくれるような、素晴らしいにをい


くっーしゃぉー!


おなかの猛獣が吠えてしまった。ごめんみんな、不意打ちに騎士属は弱いんだよ。


「貴様、何者だ!!」


バレた、どうしよう


ちらっと後ろを振り返ると、すでに聖女と戦士と武道家が臨戦態勢になっていました・・・いやあなたたち最初から気が付いていましたよね?勇者は剣は持っていませんが、腕輪から強い魔力を感じるますどうやら、剣一本の戦いから考えを改めたのでしょうか?


『ええい、言わせておけば・・・こいつは魔王の名をかたる偽物だ!!斬れ!!!斬り捨てろ!!!』


3年前、小魔王を引退するときに、勇者に、おせっかいながら、「もうそろそろ現実見て、こんな無意味なことはやめて、国でできることをしたほうが、あなたのためにもなるし、きっと心配している人もいるよ。だから、こんなことはもうやめにしたほうがいい」と言ったところ、逆上して偽物扱いされた。


その時は、聖女含めて、全員抜刀して襲い掛かってきたけどね、一糸乱れず抜刀する様は、圧巻だったけど、お約束のように一瞬で切り伏せたときには、なんか、むなしさ通り越して、悲しくなっちゃたな。


腰の聖剣に手をかけていないところを見ると、聖剣は最後の手段になったようだ、そっと、王様の方を見てみると・・・怒ってる、全然表情に変化ないけど『もう少しで終わりそうだったのに何アンコールしとるんじゃ、さっさと、この茶番終わらせろ』と、目元と口元が引きつっていらっしゃる、王妃様は、呆れ顔を隠そうともしていない。大臣は・・・うん、本当にごめん、私のおなかのせいだ、大臣は何も悪くない、だから、そんな、かわいそうな子を見るような眼で見ないでほしい。


仕方ない、私は、勇者たちに振り向くと、そちらのほうへ大きく跳ぶ、そのまま、勇者たちの頭上を飛び越え、2回半ひねりをして、絨毯のしわにならないよう静かに着地はするが、全身鎧のガチャン音はきちんとさせる。


「貴様、何者だ!?」


どうしよう言い返しが思いつかない。正体を言えば、「しがいない休暇中の職業魔王です!いま、お昼が、お昼ご飯が食べたいとです!」としかでてこない。


少し沈黙が流れる。仕方なく、大臣の方を少し盗み見る。ああ、これ、プレッシャーにやられてますわ。両側から、『早よ、早よ』って言われてたら、そりゃいやになるわ。


仕方ない、少し助けよう。


「・・・お初に、お目にかかります。勇者よ」


おお、言えたよ。休暇前に言われてた、万が一勇者と他国で出会ったら、挨拶から入れ。できたよ。生かしたくなかったけど。


あと、変声魔法もきちんと仕事してる。無機質な声だ。3年前はつい素で話しちゃったけど、これでさすがにばれないだろ。


「そして、さよ・・・」


「行け戦士!二段切りだ!!」


腕輪に、勇者が何か言っています?その瞬間でした、戦士がものすごい勢いで、こっちにかっ飛んできたのですが。


「って、人の話聞け!!」


つい素の声が出てしまいます。戦士の一段目の攻撃を左手で払い、手を締め上げて、剣を取り上げます。そのまま、鎧の胸板を蹴り、勇者たちの方へ押し戻します。つい、うっかり戦闘姿勢を取ってしまうのは、騎士族の悪いところです。本当に悪いところです・・・。


「く、戦士戻れ!!」


かっ飛んできた時と同じように、あっという間に勇者の元に戻っていきます。これで、引けなくなってしまいました。・・・どうしよう。


基本的に魔族や魔王が勇者と戦えるのは、魔属領の中だけです。いくら4年前に法国と魔属領以外の周辺国の問題が解決済みでそれぞれ和解済みとはいっても、その原則は崩れていないわけです。


しかも厳しいことに勇者を倒すことは許されてい死合えるのは魔属領だけです、逆に倒されることも許されていないのです。


上の話では”状況再現を行うため”と言われていますが、本当はどうなのでしょうか?


「聖女、回復だ!!」


あちらは光に包まれて回復していますが、聖女さんの息がすでに上がっています。これでは、回復は数回で打ち止めのようですね。って、もしかして、レベル1とかになっているんですか?だとしたら、さっきのキックも結構効いてしまっていたのかもしれません。


これは、本気で手加減しないと、倒してしまいます。


右手のロングソードを目の前に掲げ、少し観察します。普通の鋳造性のロングソードであることを確認し、左手に黒煙をまとわせて、刀身をなぞっていくと、黒煙が刃を為し、見た目には非常に凶悪な見た目になりますが、非殺傷設定の付与魔法です。

効果は攻撃力が上昇するが、相手にとどめを刺すことはできない。という、パーティ用のジョーク魔法です。


冗談で作った魔法がまさかこんなところで使うことになるとは、かんがえてもいなかったです。


「く、なんて邪悪な気配なんだ、聖戦士の剣に一瞬で呪いをまとわせるとは、恐ろしい相手だ。」


いや、呪いでもなく、ただのジョーク魔法なんだけど、おまけに聖戦士の剣?ただの鋳造製ロングソードに本当に何を言っているんだ?


「いやこれは・・・」


くぅしゃーぉー!!


思わず俯く。結構恥ずかしい。ごめん、お腹の中の猛獣、空気読んで。


「は、もしかして、あの声は、そうか・・・」


勇者が何か気が付いたらしい。


「どうしたのだ勇者?」


「俺は、とんでもない勘違いをしていたのかもしれない。・・・みんな聞いてくれ、あの悲し気な咆哮は、大臣の悔恨の声だったんだ」


「「「「な、なんだってー!!!!」」」」


いや、ただの凶悪なおなかの虫だよ。勇者くん、君に消されかけているお昼ご飯の恨みだけど。


「そうか、大臣は、苦しんでいたんだ、この魔物に!!俺たちはもう、迷わない!!」


何言ってんだこいつと、私は、剣を向ける。ちらっと王様を見ると『とりあえず、終わらせる方向に持っていけ、協力はするから』と、如実に訴えている、王妃様も、そろそろ茶番は終わらせろと、目で訴えてきている。大臣は・・・うん、大丈夫そう!ごめん、後で一芝居アドリブで打ってもらいたい。


「ふふ・・・ふはは!!あーはははははは!!!大臣が我を切り離してくれたおかげで、貴様らと斬り愛うことができるとは、至極愉悦、至極光栄!!さあ、涙と嗚咽と鼻水の準備はよろしいか?」


よかった、悪役ぽいセリフ言えたよ。つい説教臭くなって、まるでオカンみたいって言われるのは回避できたよ。


「お前は・・・生きてはいてはいけないやつだ!!」


その一言は人生の中で初めていわれたぞ。


「私たちの友情パワーを舐めないでください、勇者、私が犠牲になります、そのすきにあいつを・・・」


「勇者・・・俺達は、、その先にいる、だからよ・・・」


死亡フラグ連発はやめてください。私にはあなたたちをどうにかしようという意思はありませんし、ここで死んでほしいと思っていません。


少し、黙っていてもらいましょう。黒煙の剣を伸ばし、一気に薙ぎ払います。勇者は、さっさと後ろに逃げて回避し、武道家は、最小限の動きで、剣をはじきます。うん?やりますね?


「ゆゆゆ、ゆうじょ・・・」


「だんty・・・」


当然、よけることのできない二人は、ここでリタイヤです。傷一つなくて、30分もすれば目を覚ましますが、戦闘不能は戦闘不能です。あっという間に戦士と聖女を無力化しました。


「次はお前だ!!」


ええ、武道家さんあなたです。


「戦士、聖女・・・俺はお前を許さない!!武道家!!」


勇者がふたたび腕輪に、口を当てま。あ、武道家さん怯えてますね。これは・・・


「あいつをやっつけるんだ!!」


全力全開っていうことですね!!騒いじゃいけない血が全部騒ぎます。


今まで、勇者を守っていた、武道家から、意志の光がきえ、私に突っ込んできます。押されてます・・・つよい、強いですよこの人!!


ばぎ・・・メキ


受け止めているロングソードが、悲鳴を上げています。というか、この人、どれだけのの功夫を積んでいるんですか?

とても勇者の同行者とは思えないのですけど。


流れるように入った回し蹴りが、ロングソードを跳ね上げます。そのまま、脇腹に拳が叩き込まれ・・・あれ?衝撃が来ない?と、私がいぶかしんだ時でした、ねじ込むようなねじ切るような衝撃に、一瞬体が被ねられながら宙にわずかに浮きます。


「くっ!!」


視界の隅には、両手をすっと引き、構えをとる武道家の姿がありました。構えに見覚えがありました、大蛇の牙の構え、あの寸勁は、このための布石だったということですね。ですが、その構えの対処は知っています。


閉じようとする、手をさかのぼるように武道家に迫り、驚いた顔をしている武道家のみぞおちに、掌底を入れようとしますが、少しずらされます。


武道家が少し後ろに飛び距離取ります。私も今の攻撃に思わぬダメージを食らっていたので、少し、呼吸を整えます。


大きなダメージこそないですが、黒煙が少し乱れています。これは・・・少しまずい状況です。


「ふぅ~」


ふぅ~じゃないです、殺しに来てますか?意識がないほうが、全力が出せるっていう方ですか?


「勇者のぱーてぃに・・・」


「ふっ・・・」


普通に高速で水平跳躍するな!!絨毯がめくりあがっているじゃないか!!直すの大変なんだぞ、謝れ!!


ぎゃーーーー


ロングソードが、断末魔の悲鳴を上げる、留め金が、外れかけて、刀身の一部がすでに闘気で溶け始めています。まずいです、ここままでは持たないと判断して、一度、ロングソードを一旦空に投げ、武道家のこぶしを・・・うわぁ、引くほど本気だこの人。


攻撃がすごく的確ですし、素手での魔軍対策もしているのでしょうか?きちんと、聖属性付与しています。


直線の攻撃は、私の攻撃を上回ります。殴り合うのは、分が悪いですが・・・そこさえ甘く見なければ、勝機など・・・


いくらでもあります!!


相手の武道家の攻撃はあくまで直線では強いです・・・ですが、徒手の拳なら、私も一家言あります。負けるわけにはいかないのです。


「護身完了、お前は斬ると突くことしか考えていないため、円が欠けていた。それでは、月を斬るなど夢もまた夢」


師の言葉です、月を斬りたい、突きたいと我儘を言った私を慰めて(ボコボコにして)くれました。あれは説教だったのかもしれませんが暖かい思いが、わたしを動かしてくれたのです。だから、たとえ未熟でも、こんなやつに負けたくないのです。


武道家の圧倒的な線の攻撃に対し、私は護身の円で対応します。もしかしたら、意識さえ失っていなければ、負けていたかもしれません、一瞬の攻防は、線の直接打撃で勝つことにこだわった武道家と、護身に回ってでも負けないことにこだわった私との差だったのです。


ほんの5秒の間に、ものすごく有意義な会話をしたようでした。心臓を狙ってきた、武道家の突きを見切り、脇に抱えると、そのまま、一回転。


「だっしゃー」


勇者の方に投げ飛ばすことができました、あと、上空に投げていたロングソードを、手に取ります。すでにボロボロで、留め具も外れかけていますが、もう少しは持ちそうです。


再び、付与をかけなおします。その時でした。


くぅ~


お願いですから、空気読んでくださいおなかの獣・・・


「武道家・・・!!もう、許さない・・・だが、」


「許さないとは、誰に対してですか?私にですか??それともあなたの仲間のことですか?」


その言葉に、勇者が、怒りに満ちた目で立ち上がる。


「お前に足してだ!!わが親友ブルータスと、第12聖女ユダ、そして、武道家のためにお前を討つ!!」


いや、武道家が一番強かったぞ、名前覚えていてやれよ。


「お前の中の、大臣への呪縛は弱くなっているらしいな!!今度こそ、俺は勝つ」


聖剣を抜いて、勇者が向かってきますが、正直へっぴり腰過ぎて、どうしようと思っています。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!」


うるせぇ・・・いや、ここで、殴ってはいけない。我慢、我慢。


がきぃん!


「く、なぜ、ここまで追い詰められているのに、なぜこんな力が出る?」


多分当たっても痛くはないですが、きちんと受けます。一応弱体化してる設定なので。


「ふん、貴様は、もう大臣からも見放された身・・・身の程をわきまえるのだな」


大臣をそっと見ます。意を決したようです。


「そ、そうです!!黒煙の騎士!!お前との契約を破棄させてもらう!!お前は、私、財務大臣と契約するのにはふさわしくない!!」


いや、なんでそんなセリフがすらすら出てくる!!


「理由をお聞かせ願えますか?」


一応冷静を装って、なぜと問います。お願いですから、腹筋に聞くような返答はやめてください。


「私は、真実の契約を見つけた、それが勇者様との契約だ。お前が、勇者の邪魔をしていたことは知っている、だが、勇者の旅路のためには、私の尽力が必要なのだ!!」


・・・恥ずかしい、たぶん私が言ったら恥ずかし死ぬ。潔いな・・・これも老いか、すべてを飲めるというのはいいこと・・・なわけあるか、


くぅ~ん


ああ、いい感じになった。おなかの獣ありがとう・・・


「く、勇者の力が上がっていく?」


少しずつ、力負けするふりをしながら、ちらっと陛下を見る、『早く終わるなら協力する』と、顔が言っている。ごめんなさい、私の力不足のために・・・、王妃様も少しだけ頷いた。


「まさか、この中に、勇者に力を注いでいるやつらがいるのか!?」


ああ、言っちゃった、悪役が負ける時のセリフ!実は、少しだけ、負けセリフを考えていたの。


「こんなやつに、人間の勇者に力を与える裏切者がこの中にいるなど!!」


陛下の口が、少し動く、「ゆ、う、しゃ・・・」手が動くパンパン(ならない)再び口が、「ゆ、う、しゃ」、手がパンパン(ならない)『ほら、儂がやっているんだ、お前らもやれ』表情から伝わる、無言の圧力が、従者たちと騎士たちを包んで・・・。



「「「「「「「「「ゆうしゃ、ゆうしゃ!(パンパン)(手拍子)ゆうしゃ、ゆうしゃ!(パンパン)(手拍子)・・・・・・」」」」」」」」」」


誰からともなく、大の大人から、まだ宮仕えを始めたばかりの子供まで、一糸乱れずに、勇者への声援を送る。


大広間に響く、(半分脅されたような)勇者コール。私は、勇者を始めて見つめる。聞こえていますか?あの声が、あなたを勝利に導き、そして、私を昼ごはんに導いてくれるあの声が・・・。


「勇者の力が・・・くっ!!!」


わざとらしく、勇者を突き放します。演技ですが、私は大きく肩で息をします。さて、勇者さん、絶好の距離、決め技打ってくれていいんですよ。


「みんなの力が、聖剣に、みんなが俺の中に!!」


いや、こじらせている暇ないでしょ。早く斬ってよ!!何でもいいからさ!!あなたが斬らないと終わらないんだよ。


「この力で終わらせる!!大臣の冤罪も、お前の悲しみも!!くらえ!!究極斬撃(アルテマスラッシュ!!)」


究極には程遠いけど、光の斬撃が天から落ちてくる、一応、私はロングソードで防ごうとして、そのまま、刀身を指でたたき折り、攻撃力のある黒煙で風化させる。多分、勇者には、剣が耐えきれずに砕け散ったように見えたと思う。


「ぐわぁぁぁ!!こんな、こんなにんげんなんかに!!」


ああ、魔王の断末魔の悲鳴、一度やってみたかったの。光の柱が立ち上った後、残ったのは、黒煙が少し薄れて膝をつき肩で大きく息をしている私だった。


あぶな、焦っよ。気持ちよく斬られてたら、絨毯を焼いてしまうところだった。本当にギリギリだった。高いんだよこの絨毯、さっきから、高速で飛んだりしてるけど、ギリギリで絨毯を防御し、上手く、斬られることができた。あとは、捨て台詞を吐くだけ。


「よくやった、勇者・・・だが、覚えておけ・・・」


キリっと、勇者が私をにらみつける。だが、斬りつけてくる気配はない。本当は、もうやめて国に帰れって言ってあげたいけど、今日はそんな雰囲気でもないし、さっさと終わらせたい。私はゆっくり立ち上がり、勇者を見据える。


「私は、魔軍では、・・・中堅だ!!」


ふふふ、言ってやった、わたしより強いやつがいるぞ的なセリフ。うん、満足。ゆっくり、あお向けに倒れて行く中で、呆れたような陛下の顔と驚いている勇者の顔が見えた。さて、茶番は終わった・・・あとは・・・


ちゅどーん


床に倒れ込んだ瞬間に、爆発音の音声魔法と黒煙を煙幕に使う。ほんの一瞬だけ部屋が黒煙に覆われる。そのすきに私は、窓に向かい走った。幸いに窓は開いている。その先には、バルコニーがあり、私は、手すりで方向転換をし、飛び降り、一階下へ降り立ち、すぐに、近くにあった物置に隠れて、人間変身魔法をかけなおす。






「はあ・・・」


やはり魔力の消費とダメージが大きすぎたらしく、ところどころ、衣装がズタボロになっている。さすがに、このままでは、大広間に戻ることはできないと感じた、このままでは、公然わいせつもいいところだ。


きゅ~ん


おなかの獣も、悲しげに吠えるが、多分お昼ご飯はないだろう。諦めの気配をまといながら、しばらくの間、私は、物置の片隅で、じっとしていた。


30分もたっただろうか?やがて、物置の戸がそっと開けられる。私はほっとした。侍女長だろうか?ようやく勇者たちが帰ったのだとおもい、そちらに目を向けると、そこにいたのは、武道家だった。


「やはり、ここにいたか・・・侍女長から頼まれて、賄いを持ってきた、もう少しじっとしていろとの、公国国王からの命令だ」


持ってきたのは、こんもりと積まれたステーキ丼とオニオンスープだった。確かにいつもの料理より豪華だけど、本当なら、もっとおいしいものを食べられたはずだったんだな・・・、うん、胃にもたれそう。


「まあ、いただきます。」


すでに私に選択権はなかった。もうしばらくしたら、交代でお昼休みに入る。その前にご飯を終えておく必要があった。


「このあと、侍女長が来るまではじっとしていろ、いいな。」


わかったといい、ふと、気になって聞いてみる


「そういえばあなた名前は?勇者から聞いていないけど」


「ああ、言っていなかったな。俺の名は、ジャン・リー。師を探している。勇者についてきているのはついでだ」


そうなのかと、私は、頷き、スープに手を伸ばす。うん、知っている人だ・・・


「魔王城には入るの?」


「いや、俺には、魔王に恨みはない・・・」


「私の拳の師父なら、そこから街道沿いに4日ほど行ったところにいるわ。400年近く生きているっていう少しおかしい爺様だけど、おいしいお酒を準備していけば、話ができるはずよ」


私はそういうと、今日のお昼をおなかに掻き込んでいく。もう、あまり時間もない。多分、そろそろ交代の時間だ。すぐに、侍女長が来るだろう。


「いい話が聞けた。あんたの拳に覚えがあったから、・・・聞いてよかった。」


「行くの?」


ああ、と小さく返事をして、武道家、ジャン・リーは出ていく。私がステーキ丼を平らげ、スープを飲み干すと、それを見計らっていたかのように小屋の戸が叩かれた。扉を開けると、そこには、申し訳なさそうな大臣と、かわいそうなものを見る目で見ている侍女長がいた。





「えっと、王様?今なんて?」


「いや、この部屋のダメージが思いのほか大きくてな・・・その補填を魔軍から出せんかと聞いておるのだ」


いやムリですよと言いたかった。職業魔王なんて、所詮は、魔軍では、中堅ですよと・・・でも、大臣が許さなかったらしい


「いえ、すいません」


うん、わかってる、壊れたものは直さないとね・・・大臣・・・少しは色付けてよ。ほら、少し前まで契約(仮)していた仲でしょ?


「すいません、損害は、あなたの給金2年分ですね・・・」


知ってた、この人は味方じゃないって。はい死んだよ、休暇中の貴重な収入減が。


「いや、あの・・・」


万策尽きた私の肩を、侍女長が叩いた。


あきらめろと、表情が言っている。いやぁぁぁぁぁ!!!死にたくない・・・(休暇)死にたくないよ!!!


そんな中だった。王様がふいに口を開いた

「ところで、魔軍では中堅というのは魔属領での台本か?」


「はっ?」


「勇者が命令の腕輪を使ってたことは知っていたか?」


「へ?」


「武道家は、今回攻略対象外だったことは?」


「いえ?」


はぁ・・・と陛下がため息をつく。何ですかその何もわかってないなこいつ・・・っていう表情は?


「次までに台本を整えておくから、ショーマンっとして、きちんとすること・・・これは、現魔王にも伝えておく、きちんとやらんと君・・・」


右手の人差し指で右首筋を指す。


「これだから」


ひぃ~、お仕事が大ごとになってきた。


それから、2か月、必死になって台本を覚え、リハーサルを繰り返し、私はその日を迎える。



台本やしぐさが身について、1週間後・・・始まる・・・


「大臣、あなたが、城下の民を苦しめていると、告発があり、調べていました!!」


勇者の登場、なぜか、前回と同人数集まっている従者たち、そして安いよく似た絨毯の引かれた大広間・・・


「大臣!!お前の罪を数えろ!!」


私以外は全員ご飯を終えている・・・私が腹の虫を鳴らすことを皆が期待している・・・




終わらないショーのゴングが鳴ろうとしている。それは、勇者が引退するまで・・・私が、魔属領に帰るまでつづくはず・・・しかし、、


『あれ?武道家?・・・なんでいるの?』


いつかそれを打ち砕くような、希望(選択肢)が生まれるまで、私はこのショーを続ける。










まあ、報酬自体はかなりいいんだけどね。




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