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8話 誰かのために


 翌日、萌麗達一行は馬車に乗り街を出て、南の方向に向かうことになった。


「南、と言ってもどの辺なのでしょうね」


 萌麗が慧英にそう聞くと、慧英は宝珠を取りだした。昨夜のように音を出したり光を発したりしていない。


「うむ……朝になったらこの調子だ。またただの宝玉のようになってしまった」

「まあ……」

「そこは私にお任せください!」


 陽梅が手を挙げた。そして懐から紙を取り出す。そこにはなにやら線と地名が書き込まれていた。


「ここから南の方がどんな地形かどんな村や街があるか宿の人に聞いてきました」

「でかした、陽梅」


 気を利かせた陽梅を、慧英が褒めた。


「ほほほ、萌麗様の侍女として当然ですわ」


 陽梅は得意気に鼻の下を掻いた。それを面白くなさそうに眺めているのは紫芳である。


「ふん、人間のくせに……」

「あら、ここは人界よ。あなたこそ妙な立ち回りで悪目立ちしないといいわね」

「なんだとう……」


 紫芳と陽梅の間にバチバチと火花が散っているのが見えるようだ。萌麗は、騒がしいことだとほっとため息をついた。


「それでは、この地図に従って南の人里を回ってみましょう」

「そうだな。おい紫芳、しっかり御者を頼むぞ」

「お任せください」


 こうしてようやく馬車は進み出した。街を出ると、まばらに木が生えているばかりで、ただ道だけがあるばかりである。


「何もないわねぇ」

「この先、三里ほど先に村があるそうですよ」


 陽梅の言う通り、しばらく進むと村が見えて来た。


「寄って見ましょう慧英様」


 紫芳が馬を操り、村の中に入ると村人たちは少し驚いた顔で彼らを見た。


「なんだ、あんた達商人か? こんな村になんの用だね。この村は貧しくて買う物などなにもないぞ」


 すると一人の村人がそう声をかけてきた。慧英と萌麗は村をよくよく見渡した。確かに作物もあまり状態が良くない。そんな村人に慧英はこう答えた。


「いや、妻が疲れたようだから休憩ができないものかと思ってね」

「ど、どこかで休ませて貰えないかしら」


 慧英の言う『妻』が自分のことだと一拍遅れて気が付いた萌麗は、少しつっかえながら休憩場所を村人に聞いた。


「それならうちに来るといいよ」


 気のよさそうな村人は、自分の家へと招待してくれた。


「さて、なにもありませんけど」


 と白湯を用意してくれる。貧しいなかでのその心づくしに萌麗の心は温かくなった。四人は喉の渇きを潤す。紫芳はその白湯を一気飲みして、村人にこう聞いた。

 

「親父さん、うちの旦那は珍しい石の蒐集家なんだ。変わった石や綺麗な宝玉がこの村にあったりしないかい?」

「いいや、ないなぁ……あってももう売ってしまってるね。この村のご神木が枯れてから、作物もロクに育たなくなってこの村はひどいことになってるんだ」

「そうか、なら休憩したら移動しよう」

「しかたないですね」


 慧英と紫芳はそう言ったが、萌麗はそのご神木とやらが気になってしまった。


「あの、そのご神木を見せて貰えませんでしょうか。私、草木を育てるのが得意なんです」

「萌麗様! 先を急がないと」

「でも、せっかく休憩させて貰ったのだし……」


 陽梅にしかられてもごもごと言い訳をしている萌麗を見て、慧英はふっと笑った。


「何かを出して貰ったら対価を払わねばだな、萌麗」

「そうです! それです」

「だ、そうだ。陽梅」

「もう……」

「陽梅と紫芳はここで待ってて、すぐに戻るから」


 不満げな二人に、萌麗はそう言うと村人に案内を頼んだ。


「俺も行こう」

「慧英様、案内もありますし迷子の心配はありませんよ」

「……まあいいではないか」


 慧英はどうしても付いてくるつもりらしい。そんなことを言っているうちに小さな村のご神木についた。


「まあ、大きな楠」

「……特に神性は感じられない。ただの木だな」

「ええ、でもこれだけ大きいのですから、ずっとこの地で村人達を見守ってきたんですよ」


 楠は茶色く立ち枯れているように見えた。萌麗はそっとその幹にしがみついて耳を当てる。


「……まだ、枯れてませんね。ああ、一帯の土に悪い虫が取憑いているそうです。作物の育ちが悪いのもそのせいだと」

「わかるのか」

「ええ。私が花仙の娘だからですかね。昔から草木の声が聞こえるんです」


 萌麗がその声に従って土を耕し、水をやればいつだって花も木も美しく立派に育っていくのだ。


「慧英様、『歳星』でこの土地の病を癒してください」

「……休憩の見返りにか?」

「それでなくても、この樹たちを見殺しにはできません」


 萌麗がそう言うと、慧英は萌麗の肩を引き寄せた。


「いいだろう。萌麗、そなたの素直な心持ちは好感が持てる」

「ちょっ……慧英様」

「ほら、夫婦のふりをしないとだ」


 そう言いながら慧英は萌麗の体で手元を隠しながら『歳星』に仙力を籠めた。するとぽたりと濃い緑の雫が地に垂れて消えていった。


「これで大丈夫だ」

「ありがとうございます、慧英様」


 萌麗は笑顔で慧英を見上げた。慧英もそんな萌麗の微笑みに目を細める。


「あのー……旦那様と奥様?」

「あ、あのー……」


 そんな二人に声をかけたのは案内してきた村人だった。村人は突然、ご神木の前で夫婦がひっつきあいだしたのでどうしたらいいのかわからないでいた。


「妻がこの楠がよくなるようにおまじないをしたよ。きっとこの樹も村の作物も元の通りになるだろう」

「だといいんだけんどー」

「きっと良くなるわ。頑張ってくださいね」

「はあ」


 いまいち事態を把握していない村人はとりあえず返事をした。萌麗と慧英はそんな村人の表情を見て顔を見合わせこっそり笑った。


「さー、もう出かけますよ慧英様!」

「ああ今行く」


 そこに紫芳が馬車に乗って迎えにやって来た。


「では、お邪魔しました」


 そう村人に告げると、二人は馬車に乗る。


「お気をつけてー」


 村人はそう言って遠ざかる馬車に手を振っている。萌麗も馬車から身を乗り出して手を振りかえした。


「……先帝陛下が言っていました。臣下や人民には思いやりを持って接すべし。それが皇族のありかただと」

「そうか。あそこの土地がまた潤えばあの村は平和になるだろう」

「そうですね。まあ難しいことなんていいんですよ。私は何かの役に立ちたかっただけなんです」

「……そうだな」


 萌麗は慧英の為にも、この先の旅でなにか役に立てればいいなと思いながら馬車に揺られていた。


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