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7話 二つ目の宝珠

「どうぞ、入って」


 すると中から女の声がする。慧英と萌麗は顔を見合わせて頷くと、その部屋に乗り込んだ。


「う……」


 きつい香の香りが満ちた薄暗い部屋。乱れた布団の上に、薄衣を纏った女が不機嫌そうに座っていた。


「あわわわ……」


 萌麗は顔を赤くして、下を向いた。だが慧英はまったく動じていない。


「そこの坊ちゃんには刺激が強いみたいねぇ。あたしは蓮香。なにか用かい?」

「探し物をしている。……これに似た宝珠を持っていないか?」


 慧英は緑の如意宝珠を懐から取りだした。とたんにキンキン……と不思議な音が鳴り出す。耳障りなその音に、萌麗と蓮香は耳を塞いだ。


「なんだこの音……もしかしてこれから?」

「あ! それです!」


 蓮香が小箱から取りだしたものを見て、萌麗は思わず声を上げた。


「白の如意宝珠『太白』……確かに、これだ」

「あんた達これが欲しいの?」

「ああ。譲ってくれないか」

「ふん……いくらで買ってくれるんだい?」


 蓮香は強気な態度でそう言った。萌麗は慧英の袖を引っ張って聞いた。


「またお金ですか?」

「そうだな、萌麗。手持ちの銀はさっき渡してしまったから取りに帰らないとだ」

「あ、でも白の宝珠なら……」

「ああなるほど」


 小声でごにょごにょと話しているふたりに、蓮香はイライラした。


「なんだよ。買うのか買わないのか、あたしゃこれを売って借金返してこの仕事をやめたいんだ」

「ほうほう、そうか。とりあえずその宝珠をよく見せてくれ」

「いいよ。良く見りゃあんた随分いい男だね、そこの坊ちゃんを下に置いてあたしと楽しもうよ」


 慧英はそんな蓮香の言葉を無視して白の宝珠をむんずと掴んだ。


「仕事を辞めたいんじゃなかったのか?」

「まあ……そうだけど」

「それにはどのくらいいるんだろうな。これくらいか?」


 慧英は宝珠を掴んだまま袖をふった。そこからザラザラと金やサンゴがあふれ出す。


「ひぇっ!?」

「まだ足りないか、それ」


 また袖を一振りすると今度は絹織物が転がり出た。


「あわわ……」

「まだか」


 そして再び振り下ろすと今度は貴重な鮑やふかのひれなどの珍味の乾物が出てくる。


「まだ……」

「もういい! もういいよっ!」


 それでもまだ何かを出そうとしている慧英を蓮香は慌てて止めた。


「それなんなんだい? 仙術かい?」

「まあそんなものだ。ただ、出したものは本物だぞ。これでこの宝珠を譲ってくれるか」

「いや、そんなものと知っていたら譲らない。これならいくらでも贅沢できるじゃないか」


 蓮香は慧英から宝珠を奪って袖を振った。だが、何度振っても何も出ない。


「……あれっあれっ」

「仙術のようなものだと言ったろう。力のあるものでしかそれは扱えない」

「仕方ないねぇ。じゃあ、金をもう少しだしておくれ。そしたらそれを持って行っていいよ」

「あいわかった」


 慧英はまた金を袖から出すと蓮香に渡した。


「これで交渉成立ですね!」

「うむ。では失礼した」


 用が済んだ慧英と萌麗は郭を出た。しばらくして中の方からなにやら言い争うような声が聞こえてきたが、萌麗と慧英は聞こえなかったふりをした。


「白の宝珠、この街にありましたね!」

「ああ」


 すると二つの宝珠が輝き出した。そして真っ直ぐに南の方向を指し示す。


「あちらが次の宝珠のありかですかね」

「ああ、きっとな」


 次の旅の目的地が見えた。慧英と萌麗は夜の街をそっと抜けて、宿へと戻った。


***


「あっ、帰ってきました!」

「萌麗様!」


 宿に戻ると慧英と萌麗を、紫芳と陽梅が待ち受けていた。


「どこに行っていたんですかっ、うっ……慧英様なんだか匂いが……」


 寝間着姿で慧英に近づいた紫芳が一歩後ずさった。龍人の紫芳にとっては残り香であってもかなりきついものに感じているようだ。

 そんな紫芳に慧英は答えた。


「なにか酒場のようなところだった」

「酒場? こんなに白粉と香の匂いをさせてぇ!?」

「紫芳……私達、宝珠を探しに行っていたのよ。この先の遊郭にあったの」

「遊……郭……」


 絶句してしまった紫芳に、萌麗は状況を説明した。


「遊郭の娼妓が宝珠を持っていたの。それでなんとか譲って貰ってきたのよ」

「そうですか……ってそれ僕の服!!」

「あ、従者のふりをするのに借りたわ」

「それなら僕を起こして連れて行ってくれたら良かったのに!!」


 慧英は萌麗に食ってかかる紫芳の頭をむんずと掴んだ。


「そんなにきゃんきゃん言うなら萌麗を連れていって正解だった」

「……申し訳ございません」


 慧英にしかられた紫芳はしゅんとして頭を下げた。


「……萌麗様」

「陽梅……」


 逆に不気味なのは妙ににこにこしている陽梅である。


「あの、男装もしていたし慧英様が一緒にいたから……」

「だからって公主様が遊郭に乗り込むなんてっ、亡き先帝陛下に申し訳ないですっ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさいね?」


 紫芳も陽梅もどちらも主人を思っての言動だけに、そう無碍にもできず、萌麗も慧英も内心面倒臭いと思った。


「とにかく、白の宝珠が手に入ったぞ、紫芳」

「慧英様……それはようございました」

「そして二つの宝珠が南を指し示した」


 慧英は西の方角に宝珠を掲げた。月の光がまた一線、すっと伸びて南を向いている。


「明日からは南に向かって旅をするわ、陽梅」

「順調ですね、萌麗様」

「ええ。ですから今日は皆さんもう寝ましょう」


 そして慧英を振り返る。夜の街の二人きりの冒険に、少し名残惜しさを感じながら。


「では……また明日」

「ああ」


 萌麗は慧英に会釈して寝室へと戻り、夜明けまで眠りについた。

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