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6話 夜の街を駆ける

「……ん」


 夜半ごろ、萌麗はふっと喉の渇きを覚えて目を覚ました。


「陽梅、み……」


 水と、萌麗は陽梅に声をかけようとしてぐっすりと眠っている彼女の顔を見た。普段なら萌麗が起きた気配ですぐにやってくるのだが、今日は起きる気配がない。それだけ疲れているんだろう、と萌麗は思い直して自分で水差しを探した。


「あら、ない……」


 枕元の水差しは空だった。萌麗は居間にあったかと思いながら寝室のドアを開けた。しん、と静まった居間のテーブルの上には緑の如意宝珠『歳星』が置いてある。


「こんなところに不用心に置いて大丈夫かしら」


 今は慧英に渡した緑の宝珠だったが、ずっと母の形見として側に置いてあったものだ。盗まれたり傷つけられたりしたらかなわない、と萌麗がその宝珠を仕舞おうとした時だった。


「あ……」


 窓の外からわずかに漏れた月光を宝珠が細く跳ね返していることに気付いた。萌麗は近づいて見てみたがどうも不自然である。


「もっと……明かりがあれば」


 萌麗は外に面している窓をそっと開けてみた。すると差し込んだ光が宝珠にあたり、真っ直ぐに一所を差しているように見えた。


「何をしている?」

「ひゃっ」


 その時、急に後ろから話しかけられて、萌麗は飛び上がった。


「……驚くな、俺だ」

「ごめんなさい」


 まったく気配を感じさせなかったのは慧英が神仙だからなのか、それとも萌麗が夢中になって宝珠を見ていたからなのか。


「慧英様、これを見てください」

「ああ、あちらの方向にずっと伸びているようだな……」

「行きましょう! きっと宝珠の手掛かりです」


 萌麗は慧英の袖を引っ張った。しかし、慧英はそんな萌麗の頭を子供にするように撫でた。


「萌麗は待っていてくれ」

「でも……」

「夜の街は危ない」


 しかし萌麗は見たかった。この宝珠の光の先にあるかもしれない次の宝珠は……もしかしたら皇帝を救う赤の宝珠かもしれない。そこで萌麗はなんとか言葉をひねり出した。


「あの、昼間……料理屋の店主と揉めそうになりましたよね?」

「ん? ……ああ」

「宝珠を誰かが持っているとしたら、その人に譲って貰わなければならないですよね?」

「……何が言いたい?」

「交渉役に私を連れて行ってください」


 陽梅に愚痴ったとおり、本当は交渉なんてまったく自信はないのだが、ここで置いて行かれたくはなかった。


「わかった。その代わり俺から離れるなよ」

「……はい」

「ちょっと待ってろ」


 慧英は一旦部屋に戻ると、紫芳の服を取ってきた。


「せめてこれを着て従者のふりをしてくれ」

「あ、そうですね」


 紫芳の服は大きさがぴったりだった。少年のような姿になった萌麗は、慧英の後を付いていく。


「どこに向かうのでしょう」

「こっちだな……」


 通りを二つ抜け、寝静まった街がにわかに明るくなる。そこは居酒屋や屋台が軒を連ねていた。


「夜なのに、こんなに明るい……」

「夜店かな」


 思わず、萌麗も慧英も目的を忘れて、煌びやかな夜の街に目を吸い寄せられそうになる。


「まだ先みたいだ」

「あ、はい!」


 萌麗は人混みの中を、慧英に置いて行かれないように懸命に追いかけた。


「ここか……」

「ここ……?」


 そこは遊郭の楼であった。窓から顔を出していた女が慧英に気付いてあやしく手招きした。


「あら、旦那様どうぞ寄って行ってくださいな」

「……?」


 だが、ここがどういう場所なのか、萌麗も慧英もわかっていない。陽梅や紫芳がいればそんなことはなかっただろうが。だが、緑の宝珠はここを指し示している。


「中に入ってみるぞ、萌麗」

「え……本当ですか?」


 萌麗は本能的にこの建物の異様な雰囲気を感じ取っていたが、慧英が行くとなったら付いて行くしかない。ここで置いて行かれる方がもっと怖い、というのもある。


「わ、わかりました」


 中に入ると数人の女がこちらを振り返る。その白粉で白い顔と赤い飾り窓の対比が艶めかしい。


「旦那様、どの妓にいたしましょう」


 すると、どじょうみたいなヒゲを生やした男が慧英に近づいた。この遊郭の主人である。


「うむ……こっちだ」


 慧英はその男を無視して宝玉を持ったまま二階へ上がっていく。そしてある部屋の前で立ち止まった。そんな萌麗の前にどじょうひげの楼主は前に立ちはだかった。


「ちょっとお客さん!」

「萌麗、ここだ」

「なんだか、あのおじさん困っているみたいですよ」

「ん?」


 慧英はそこでようやくここの楼主である男の存在に気付いたらしく、そちらの方を見た。


「そこはうちの看板娼妓の蓮香の部屋です……ただいま仕事中でして」

「用があるんだ」

「どうしてもというのなら……これ、をはずんでいただきませんと」


 楼主がした金を指し示す動作を理解できなかった慧英と萌麗は首を傾げた。


「……どういうことだ。萌麗」

「うーん、ちょっと待てということでしょうか」

「そなたは交渉役だろう?」

「……そうでした」


 萌麗はつかつかと楼主の前に進み出る。楼主は横の妙な従者が近くに寄ってきたので思わず身構えた。


「もしもし、この部屋に私達は探し物があるのです。少しの間、入る事はできませんか」

「さっきも言ったように今、蓮香は仕事中なんだ」

「仕事ってそんなに忙しいんですか?」

「そりゃまあ……ちょっと坊ちゃん、まさかここがどういうところかわかってないのか?」

「……ええ」


 楼主の親父はちょっと考えた末に萌麗の耳元に囁いた。その内容に、萌麗は顔を赤くして目を白黒させた。


「と、言う訳でな……中断させるならそれなりの金をよこしな、な?」

「な、なるほど」


 萌麗は慧英の元に戻って説明しようとした。だがどう説明したらよいものか。迷った末に萌麗は大分端折って慧英に伝えることにした。


「中ではお仕事中なので中断させるのに代金を払わなくてはならないようです」

「なるほど……、おいそこの。これで足りるか」


 慧英は楼主に懐から出した銀を握らせた。


「へ、へえ……十分すぎます……へへへ」


 すると途端に態度を軟化した男は、部屋に入っていった。しばらくして別の男が前をはだけたまま出てきて、慧英を睨んで行った。中で何が起こっていたのか知っている萌麗は心の中でごめんなさいと呟いた。


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