エピローグ happy ever after
――それから一月後。皇帝の見守る中盛大な結婚式が執り行われた。
「萌麗様……とってもお綺麗です」
「ありがとう」
赤い花嫁衣装に身を包んだ萌麗は恒春宮から輿に乗り、慧英の元に向かう。慧英は少し緊張した顔をしながら萌麗を出迎えた。
「幾久しくお願いする」
「はい……私も!」
一枚の絵の様に美しい仙人の夫婦を、宮殿では諸手を挙げて歓迎した。
「末永く……幸せにな」
皇帝もそんな二人に声をかけた。
「はい陛下」
「もう陛下と呼ばなくてよい。そなたは仙女、百花娘々なのだから」
「では……お義兄様。私はしあわせになります。お父様、お母様の分まで」
「ああ……そうしておくれ」
皇帝は幸福に明るく輝く妹の顔を見て頬を緩ませた。
「ところで……そなたたちは本当に後宮に住まなくていいのか?」
「はい、せっかく領地をいただいたのでそこで暮らそうかと。ちょくちょくここには顔を出すつもりですが」
「まあ新婚夫婦の邪魔をしないよう、善政に努めなくてはな」
皇帝がそう言うと、慧英が二人の間に顔を突き出して言った。
「そうしてください、お義兄様」
「ちょっと、慧英様!」
「おやおや、嫉妬かな。婿殿」
「ははは」
こうして萌麗と慧英の夫婦は公主の邑に居を構えてこの国を見守ることとなった。二人は質素な城を建ててそこに住んだ。その中庭は季節を問わず、四季の花が咲き乱れる花園になっていた。
「萌麗……城下の農家に行きすぎじゃなかろうか」
「野菜作りも面白いんです! 作物によって土を変えたり、水のやりかたにも……」
「そうか……まあ楽しいのならいいんだが……」
今日も土いじりで泥まみれの新妻に、慧英はしかたないな、と苦笑した。
「慧英様は甘いですねぇ」
「しかたないです。うちのご主人様は可愛らしいので」
紫芳と陽梅は半ば呆れながら毎日そんな二人を見ている。
「……で、なんでそんなソワソワしてるんですか、慧英様」
「いや、なんでも……」
「あら、この城の城主は私なんですよ、隠し事なんてできません」
「……お前」
「東の海に巨大な海獣が船を荒らし回っているとかなんとか……気になりますよねぇ」
「うっ」
萌麗は図星を指された慧英の顔を見て微笑んだ。
「静かに暮らすのも飽きたので、そろそろ旅に出るのもいいかな、と思うんですが」
「萌麗、付いてくるのか?」
「もちろん。紫芳も陽梅も一緒でしょ?」
「……しかたないなぁ」
慧英は苦笑しながら、萌麗の手を取った。そしてその額に口づけしながら呟く。
「俺は幸せだ、萌麗」
「もちろん、私もです」
――こうして龍と仙女に守られた稀国の繁栄は長く続いた。




