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【コミカライズ】百花娘々奮闘記~残念公主は天龍と花の夢を見る~  作者: 高井うしお


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23話 北の街、黒慶

「ぐあっ……」


 山道の急な斜面を男が転がり落ちていく。


「な……くそっ」


 残された男達は身構えた。月明かりに鈍く、なまくらの刀の切っ先が光る。


「ふん……山賊風情が」

「黙れ小僧!」


 先程から紫芳にいいようにやられていたのは山に潜んでいた山賊達である。


「へぇ、その小僧に何人やられた?」

「ぐっ……」


 山賊はそう紫芳に煽られて言葉を無くした。


「……紫芳、遊んでいないでいい加減とどめを刺せ」

「は、慧英様」


 紫芳は馬車の前に立ち、様子を見ていた慧英の言葉に頷いた。


「じゃあ、僕達先を急いでいるんでここまでな」


 紫芳が一瞬かがむ。そして次の瞬間姿を消した。否、目にも止まらぬ早さで飛び上がったのである。それに目を奪われた山賊共は次の瞬間冷たい山の土の上に伸びていた。

 まるで舞のごとき美しい紫芳の蹴りは次々と急所をえぐり、山賊達を倒していく。


「こんなものでしょうか」

「……うむ。萌麗、もういいぞ」

「はい」


 男共が動かなくなったのを見て、慧英は馬車に声をかけた。すると馬車を覆っていた茨がするすると地面に飲み込まれていく。


「ふう……」

「大丈夫か、萌麗」

「ええ。慧英様たちは……」

「このようなチンピラにやられるものか。に、しても……北の治安が良くないというのは本当のようだな」


 ここは北の街の手前の山中。雪に阻まれて夜中に強行突破したところ、みごとに山賊に襲われたところだった。


「さ、進みましょう。ここにいても凍えるだけです」


 紫芳はそう一行に声をかけて、馬車を進めた。


 一行は雪の中を二日ほど進み、この北壁の街にたどり着いた。


「ここが……」

「萌麗、見ろ」


 慧英は如意宝珠たちを懐から出し、月明かりに照らした。如意宝珠は月光を反射して街へと細い光を伸ばす。


「光が。やはりここに」

「ああ。どこかに必ずあるはずだ」


 萌麗と慧英は顔を見合わせ、眼下に広がる北の街--黒慶を見下ろした。


*****


「これが北の大河……」


 翌朝、朝食を終えて街に出た萌麗達は目の前にどこまでも広がる河を見て息を飲んだ。


「向こう岸が見えませんね」


 萌麗は目を細めて対岸を探そうとしたが見当たらない。これは海ではなく河なのだという。このゆったりと流れる巨大な河が稀の国に異民族が流入するのを防いでいる。


「ううっ、寒い……」


 河面を吹き抜ける冷たい風に陽梅が身をすくめた。


「あ、あそこに茶屋があります。ほら、行きません?」

「ええ……」

「ほら、聞き込みですよ。なにか知っているかもです!」


 陽梅は寒さに手をこすりながら三人を待たずに茶屋の方へと歩いていく。


「もう……」

「すいませーん、お茶をよっつ!」

「はいよ!」


 しばらくして熱い湯気の立ったお茶が出てきた。それをすすり、陽梅はようやくひとごごちついたようだ。


「ふう……」

「あら美味しい」


 温かいお茶が胃の腑に落ちていく。大河の光景に夢中になっていたが萌麗の体も凍えていたようだ。


「お客さん達、旅行かい?」


 茶菓子を出してくれながら、茶屋の店主が聞いて来た。慧英がそれに答える。


「いや、商売に来た」

「へえ、ありがたいね。ここのところ行商人が減ってしまってね」

「なにか反乱が起きているとか」

「ええ、ここの対岸で大きな反乱があってね。ここまで降りてこないか皆不安がってる」

「大変ですね……」


 萌麗が心配そうに呟いた。その顔を見て、店主はとん、と胸を叩いた。


「でもな、安心してくれ。この街には守り神がいるんだ」

「守り神?」

「ああ、河のほとりにあり廟に祀ってあるのがこの街の守り神様なんだ。河の氾濫を防いでくれる水神様さ。きっと反乱も治めてくれるさぁ」

「……水神様ですか」


 萌麗は慧英に視線を送った。慧英はその視線を受けて頷いた。


「行ってみよう」


 一行は茶屋を後にして、店主から教えて貰った廟に向かった。


「ここか」


 そこは思いの外大きな廟だった。龍の彫刻の施した屋根の先にお堂がある。


「……龍の気配は無いが……・」

「わかるんですか?」

「ああ」


 そう慧英が答えた時だった。胸元に仕舞ってある如意宝珠が輝きはじめた。


「ああ、さっそく見つかったぞ。あのお堂の中だ」

「よかった。今回は早かったですね」


 如意宝珠と同じ光が、お堂の中の厨子から漏れ出ている。きっとここに四つ目の如意宝珠があるのだろう。


「ではこれを……」


 そう慧英が厨子に手を伸ばした時だった。


「こらっ!!」


 大きな声がお堂の中に響いた。


「水神様にいたずらする気か! 罰当たりものめ」


 慧英が振り向くと、そこには腰の曲がった老道士が立っていた。


「いや……そんなつもりは……」

「この中には水神様のありがたい玉が祀ってあるんじゃ」

「玉?」

「ああ、この河に打上げられた大魚の腹の中から出てきた宝珠だ。手を出すなら出ておいき」

「……」


 萌麗と慧英は顔を見合わせた。宝珠自体はすぐに見つかったが、なんだか面倒なことになっているようである。



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