表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/42

ブリジッタが覚えている限り、両親はそれなりに仲の良い夫婦だった。ただ長じて考えるに、父は母を敬い尊重し、母はそれを鷹揚に受け入れている風で、彼に領地運営の話だのは一切しなかった。父の尊重の分母は父を侮っていたというか、対等な存在とは見なしていなかったかもしれない。

そしてある程度予想された話ではあったが、引き取られた娘のデイジーはかなりの問題児だった。

庶民の中でなら、朗らかな可愛らしい少女で通ったかもしれないが。声が大きく感情表現が大袈裟で、放っておくといつまでも喋っている。その話す内容も他愛のない雑談ばかりで、子どもらしいと言えばそれまでだが、如何にも浅薄だ。

書類によれば、デイジーはブリジッタと二つしか歳が違わない。その年頃の貴族令嬢なら、一通りの躾は終わって拙くとも社交デビューの練習を始める頃。

領地運営を担って忙しい日々を過ごしているブリジッタは、あまり社交に力を入れていない。既に婚約者もおり、優先順位が低かったこともある、未婚女性が社交界に出る最大の理由はやはり結婚相手を見つけるためだ。加えてブリジッタの場合、単純に時間が足りなかった。

父が頼れない分、エルスパス侯爵の領地を運営していくには、伯父やその後継者である従兄の協力も仰いでいる。領地の代官や商会の関係者等、多くの人間が今は彼女を認め、色々と決裁や面会を求めたり、情報を寄せたりしてくる。

その多忙さもあって、父ライアンとその妻子は放置しておいたのだが、そちらは何かと動き出したようだ。特に妻のダリアが。

お披露目を派手に失敗した後、今度は何処かから招待状を得ようとしていたらしいが、まともに社交をしておらず、更に侯爵家の実権を持たないライアンに招待状を送る貴族はいない。焦れて彼をせっついたようだが、相手のある話だ、早々どうにかなる訳もなく。

それでも何とか某子爵家の夜会に招かれることに成功し、豪華な衣装を誂えて乗り込んだまでは良かったが、そこは下級貴族や庶民より裕福な程度の商人が集う場だった。高価な衣装や装飾品は悪目立ちし、上から目線を振りかざすダリアは敬遠されまくって全く繋がりを作るどころではなかったようだ。

そして噂は足が早い。程なく、侯爵代理のライアンが悪い女に引っ掛かっただの近々侯爵家を追い出されるらしいだの、特に悪評は疾風の如し。

元々ライアンは、仕事はできるものの貴族としては致命的に社交に向かず、親しい友人もない。つまりその噂を否定してくれる者もおらず、伝手がないため立場はあっさり悪化した。

本人よりダリアの方が焦ったのだろう、家令に当たり散らそうとしたが、「ライアン様は侯爵家と生計を分けられるそうで」と面倒を見ることさえ拒絶された。代わりにライアンの得ている給料で使用人を雇い、妻子の世話をさせれば良い、と促されてこれは素直に従う。

デイジーにも家庭教師をつけたが、教育ははかばかしくないらしい。行儀作法や一般教養の知識を身に付けるため呼ばれた教師は大概貴族の老嬢だ。王国の社交は貴族によって回っているため、それに合わせた振る舞いを学ぶためには、やはり貴族籍にある人間を頼り手本にするのが間違いがない。

だがダリアはそうした教師達にも敵意を剥き出しで、そうすると当然娘のデイジーもそれに倣う。次から次へと教師が変わり、辞めた誰もが「あの娘では、到底家から出せまい」と口を揃えた。曰く、身勝手でお喋り、考え無し。思慮が浅く判断力がない上に、論理的思考や我慢を身に付けようとしない。見た目はそこそこ可愛らしいが、貴族の中には入れまい、と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ