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それは、婚約者を追い出した責を問われ彼女の領地をせめて守ってみせよ、と指示されたのに対してそう言わば大見得を切ったのだ。
もちろんこの場にいる者のほとんどはその場にもいた。そしてほぼ全員が、シモンの発言にむしろ諦めを覚えていた。
シモンは自分が第二王子として、この国では極めて上位に位置し、敬意を払われる存在であるという自覚はある。むしろその自覚は過ぎるほどだ。
それ故、自尊心をくすぐってくる相手には弱い。本人は自分が美貌と地位とそしてその気高さ故に人気が高いと信じ込んでいたが。他の者から見れば的外れな思い込みだ。貴族令嬢が彼を褒めそやすのは、王族に対する義務感が八割、後の二割は彼の如何にも華やかな容姿に対してだけであって、そこに思い入れはない場合がほとんどだ。
大体、彼にはきちんとした婚約者がいることも有名で、物静かだが真面目で信用のおけるブリジッタは、友人は少なかったが信用は篤かった。少なくとも母の後を継いで真面目に領地を治めている、そうしようと努力している、と言う点は否定する者もいなかったし、評価される点だ。
対するシモンは、自信過剰で世間知らず、と言うのが定評だろう。彼の兄たる王太子殿下は、それなりに優秀な成績を修めている。天才ではないかもしれないが、努力を知る秀才ではある。
その兄に対抗心もあるらしいシモンは、しかし自負心の強さがおかしな具合に向いたのか、自分は努力などしなくても才能がある、と思い込んでいるらしい。もちろん、彼は自分が思うような天才ではない。努力を厭って怠けていたので、むしろ標準より下になるくらいだ。
そして更に、彼が婚約者を捨てて妻に選んだ、その婚約者の義理の妹。今となっては毒殺者の娘、という噂でも何でもない事実が広まりつつある。それは未だにシモンも同行しているレイフォードも知らないようなのだが。
そしてこの娘・デイジーは貴族令嬢として育てられなかったせいもあってか、礼儀知らずだ。シモンの妻、という立場はしかし彼女の出自や来歴から正式なものとして認めていない者もいる。要は彼女の母と同じく、内縁関係と認識されているのだ。
彼女もシモンたちと一緒に王都へ戻っているのだが、財政的に苦しいというのに高級な服飾店や宝石店を回りたがる。本人の容姿はどちらかといえば素朴な可愛らしいものだが、それには不似合いな豪華で派手なものを選びたがる。そして既に財政の厳しさも知れ渡っているから、どこの店でも掛け払いを拒まれてキレまくって騒ぎを起こしていた。
それがまた、シモンの見る目の無さを際立たせていた。
「とりあえずシモン。おまえは蟄居、これは決定だ。覆らぬ」
きっぱり言い切って国王は深々と溜息を吐いた。
「そして、おまえたちが荒らしたエルスパス領であるが……どうしたものか」
「陛下、それは……」
公爵が言いかけてふと言葉を切った。ちら、と流した視線が室内を巡る。
「……ここは、経験ある者に諮るも一案かと」
「……そうだな。……では、ブリジッタ・エルスパス」




