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「残念ながら、これ以上おまえにエルスパス領を任せておくことはできぬ」
国王は厳かに息子に告げた。ぎょっと目を見開いているのは当のシモンだけで、後は揃って納得顔だ。シモンの後ろに控えていたレイフォードは俯いて体を縮こまらせている。
「し、しかし……そのような話は、全く耳にしておりません!」
声を荒げるシモンに一堂から冷ややかな視線が注ぐ。
「ではおまえは、領内の状況をどうやって得ていた。仮にとは言え領主としてある以上、領地がどのような状態であるか把握しておくのは最低基準である訳だが」
「状況……え、いや、それは……」
うろたえ気味に背後を振り返ったシモンのその視線からレイフォードはさっと目を反らし、ますます顔を伏せる。
「……れ、レイフォード!おまえ、何の問題もないと言っていたではないか……!」
「……いえ、それは……最初は、そうでした、が……その後は、お耳に入れようにも、『任せる』としかおっしゃいませんでしたので……」
レイフォードは俯いたままもごもごと弁解する。
その辺りの諸々については、既に監査官たちによって王宮へ報告済みである。何しろシモンは領主の館に収まったきり、いろいろ新奇な方策を打ち立てるものの現場にはほとんど出てこなかった。それをいいことにレイフォードや他の者たちがそれぞれ勝手に振る舞い、てんでに身勝手なことを言ったり一貫性のない策を次々言い出したりと、領民にはいい迷惑だった。
今まで羊を放牧していた土地を畑にするからと立ち退かされた者、岩場の多い土地に山羊を飼っていたらそれまでの何倍もの税を求められた者や素朴な厚い布地を織っていたら薄手の布を作れと強要された者など、これまで蓄積してきたこと全てを無視した命令ばかり出してくる新しい領主に、大概の領民は嫌気がさしていた。それは最初のうち王族が領主になった、と喜んでいた者たちも例外ではなく。さっさと見切りをつけて逃げられるうちに逃げようという者がずいぶん多く出た。
本来なら領民が土地を離れるのは制限が多い。にも関わらず、今回に限っては罪に問わないどころか、行く先として斡旋された領地まであった始末で、つまり国の上層部もこの新しい領主がまともに領地を治められるとは思っていないのだろうと。そう察しさせる状況だったのだ。
もちろんシモン自身は全くそれを認識していなかった。言うだけ言ってそれで後は誰かしら自分の意を汲んで動いてくれるのだろうと、根拠もなく信じていた。むしろ王族たる自分の役に立つことを光栄に思え、というくらいで。
「シモン、おまえはこの後、直接北の離宮に入れ。客間の荷物も精査後届けさせる」
「は!?」
「後は……そちらのレイフォードだったか。どうする、公爵?」
「私どもとしては、引き取って奥向きの仕事をさせても構いませんのですが」
それは即ち表には出さず飼い殺しにするという宣言である。
もちろんシモンに対する処遇も同様だ。さすがに命をとるような処罰は重すぎるが、自由に振る舞われては困る彼らに対しての幽閉はまずまず妥当と言えよう。
が、当人はそうは思えなかったらしい。
「ち、父上!しかし、その……た、たった一年しか経っていないのに!これから、施策の効果も出るはずで……!」
「おまえは、エルスパス領に赴く前も同じことを言っておったな。自分が彼の地に入れば、領民も自分に従い、土地を富ませて栄え、賑わいも高まって税収も増えるだろう、と」
おかしい……何で終わらないんだろうか……
今月中にはendマークをつけますとも




