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「私やお母さんを愛してるなら、貴族としての地位とか十分な金をちょうだいよ!!」
可愛い顔をして言うことがなかなかえげつない。しかしおろおろしているライアンはもちろん、シモンもそれを厭う様子がなく、むしろ一緒になってライアンを責め立てている。
「そうだぞ!父親として、娘に愛情を示すこともできぬのか!」
さすがに国王が呆れた声をかけた。
「シモン。……この王国内において爵位の継承は、個人で勝手に選べるものではないであろうが。それも知らんというのか」
「あ、い、いえ!……その、それは……何故それを、今になるまで教えなかったのかと、それを聞きたいと思っておりまして」
「あまりにも当たり前のことで、わざわざ教える必要があるとは思わなかったのではございませんかな」
とって付けたように言い訳するシモンに、公爵は冷ややかだ。ぐっと言葉に詰まる彼を一瞥し、国王に視線を戻して続ける。
「陛下、ご存知の通りエルスパス家は我が父先代のパーサプル公爵が娘のイザベラのために興した家。……ブリジッタに継がせるなら良しと思っておりましたが、そうでないのならば、先行きを考えねばなりません」
「……うむ」
ブリジッタがエルスパス家を継ぐのなら、単なる一侯爵家として受け継がれていくはずだったが。そうならないのなら、家とそれに付随する領地が引き取り手もなく浮く。
もちろん王家もパーサプル公爵家も、かなうことならそれらを我が物にしたい気持ちはあるが、いずれに渡したとしてもそれぞれ禍根を残しかねない。
更にはシモンを問い詰めても、ブリジッタの行方については言を左右にして明確なことを言わないし、レイフォードに至っては両親と長兄に詰められて必死に言い訳しているうちに顔を真っ赤にして卒倒した。頭に血が上りすぎたのだろうと、侍従一人つけて放置されている。
国王はもちろん、公爵としても息子の不始末には頭を痛めている。おそらくレイフォードの方は、自分勝手な思い込みもしくはシモンの思い込みを利用して、自分が侯爵家をいいように乗っ取ろうとしていた気配がある。
それもあって、公爵家としてもあまり強くは出にくい。しかし却ってそのことが、着地点を不明確にしている。いっそシモンとレイフォード、どちらかが一方的に悪意あって相手を騙していたのならそちらを罰すればいいのだが、双方共に問題点が多くどちらかだけの責任とは言い切れない。確実に咎があるのはライアンとその内縁の妻子だろうか。
しかしこれも、ライアンは単に何も考えていなかっただけの可能性も高く、妻子もあまりにものを知らない故、と言えばそれだけだ。高位貴族の子女なら知っていて当然な、爵位の継承の順位やそれを受け継ぐ条件を知らないが故の暴走と言ってしまえばそれだけだ。
「……陛下。公爵家としてもいろいろ思うところはありますが。今回は、互いに痛み分けとしたく思います」
「……それが、無難であろうな」
硬い表情で言葉を交わす国王と公爵を、シモンは困惑したように見比べているしかなかった。




