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はっきり言ってこの場にデイジーは全く相応しくない、異分子だ。
そもそも本来は王宮に足を踏み入れられる身分ではない。彼女はあくまでライアン・エルスパスの庶子に過ぎず、しかもその父親も公式には侯爵代行であって身分は無いに等しい。母のダリヤはとりあえず実家は子爵家なのだが、婚外子であるデイジーは平民同等の身分しか持たない。
しかし当人その事実も弁えず、或いは理解していないのか、しきりにひどいひどいと喚いて喧しい。その声の大きさだけでも、この場に相応しいとは言えない。
王侯貴族なれば、どんな立場に置かれようとも大声を上げて自分の感情をあからさまにすることは忌避される行為だ。少なくとも王宮というこの場所においてさえ、自分の感情を制御できないような人物はその位置に立つに相応しくない。
「……ライアン、『それ』を何とかしろ」
公爵は実に嫌そうに吐き捨てるが、それにシモンが噛みついてきた。
「公爵!『それ』とは何だ『それ』とは!?あまりに失礼であろうが!」
「……殿下、それではその娘の振る舞いが問題無いとでも仰る?」
冷ややかに切り返されてさすがにシモンも言葉を失う。
王族として生まれついた彼には、幾ら愛らしいデイジーを溺愛していても彼女の振る舞いが貴族社会の規範から大幅に逸脱していることはわかる。それをわかっていて、それでもその故に彼女の無垢さを感じて守りたいと愛してきた。
今回、ライアンに対する王宮への呼び出しに彼女の同行も指示されていたので、それを聞いたシモンとしては両親が彼女を認めてくれるものと思い込んでいたのだ。そういう思い込みは、実にこの迂闊で視野の狭い王子らしいと言える。
また、王宮への召喚とあってデイジーとその母ダリアはとても張り切った。だがダリアも貴族の娘だったとはいえ、王宮に伺候することなどデビュタントの経験しか無い下級の地位だった。なので、『王宮に私的な話し合いで招かれる』という場合の適切なドレスコードが判断できていない。
具体的には、今彼女が着ているような華やかな色合いで開いた胸元にきらきらと良く光る装飾品を幾重にも纏い、髪を凝った形に結い上げてこちらもひらひらと人目を引くような飾り付けをし、とどめに華奢な踵の高い、やはりとても高価な靴を履いたその姿は、些か奇異なものだ。少なくともここまで王宮内を歩いてくる間に、通りすがった者たちがぎょっとしたような視線を向けてくる程度には。
夜会ならそこまで浮かなかったかもしれないが(それにしても身分の無い娘にさせるには些か不適切)、昼のしかも事務的な会合、そして本人たちは認識していなかったかもしれないが、問題行動について弁明を聞こうという席なのだ。常識を疑われるのも無理はない。




