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何を言われたのか、理解できなかったシモンとデイジーがきょとんとするのに大人たちは目配せを交わす。そしてある意味ライアン侯爵代行はぶれなかった。
「はい。残念ですがブリジッタは別の方を探さねばなりませんでしょう。お力をお貸し願えますか」
「……それがわかっているならまだマシか」
その悪びれもせず淡々とした言葉に公爵はこちらも溜め息を吐く。
が、そのやり取りに激昂したのはシモンだった。
「ど、どういうことだ、エルスパス侯爵!私が侯爵家を継ぐのだから、あの女は関係ないだろう!」
「……どう、と仰いましても。……あの、殿下はブリジッタでなく、デイジーを娶るのでしょう。でしたらエルスパス家は関わりないのですが」
当たり前、とばかりに言われてシモンは顔を紅潮させる。
「ふざけるな、デイジーはおまえの娘だろう!何故彼女が、あの女に与えられるものを受け取れない!?」
「それは、その……」
「元々エルスパス家は、イザベラのために興した家です。ブリジッタの母親であり私の妹が興した家である以上、全く関わりない人間に継がせる意味はない」
困惑した調子のライアンに公爵はきっぱり言い切る。些か呆れた口調で続けた。
「このことは、知らない者の方が少ないと思っていましたが。まさか殿下がご存知ないとは」
しみじみと頭を振る様子は落胆の色が濃い。
元々パーサプル公爵は、シモンを大して評価していない。自己評価は高いがそれは周りにちやほやされた粉飾状態で、実状は普通の貴族嫡男の平均に届かない程度だ。長年領地に通い領民に寄り添って、実績を積んできたブリジッタには遠く及ばない。
増してそのブリジッタを追い出してどこの馬の骨だか知れない小娘を娶ろうなどと、正気とも思えない。
「つまりシモン。おまえはその程度の、貴族社会で常識であることさえ知らなかったのだな」
今まで無言を守っていた国王が、徐に口を開いた。
その言葉にシモンも大きく肩を揺らす。
だが、そこで割って入る者がいた。
「お父様は、私が可愛くないの!?」
甲高い声を張り上げるデイジーだ。
シモンの腕に抱きついた彼女は、ひどく耳障りな尖った声で喚く。
「お父様、ひどいわ!私を、お母様を愛してないの!?」
「いや、デイジー、そんなことはないとも。おまえとダリアは、私の最愛の妻と子だ、愛しているよ」
「えぇー、じゃあなんでー?なんでおうちを継げないなんて、ひどいこと言うのー」公式の場ではないとは言え、とても王族の前でとる態度ではあり得ない。
王妃は完全な無表情で固まり、王は呆れて声も出ない、といった様子だ。見るにみかねて公爵が叱責する。
「ライアン、その娘がいてはまともに話が進まん。退席させなさい」
「えぇー、おじ様ひどーい!」
デイジーはますます甲高い声を上げるが、公爵および夫人と令息、そして国王夫妻もその彼女を綺麗に黙殺する。




